90年代の米TVドラマに見る「理想のリーダー像」

「スター・トレック ヴォイジャー」シーズン2より。右端が女性艦長キャスリン・ジェインウェイ演じるケイト・マルグルー

90年代のアメリカのTVドラマのヒーローたち。9.11以前、トランプ大統領以前だからこそ成立し得た理想のリーダーの姿とは? 弊誌連載小説『バタフライ・ドクトリン─胡蝶の夢─』著者の波多野聖が語る。


映画、映像という意味では、TVから最も影響を受けているんです。基本的にSFが好きなのですが、SFには、理想の人間や未来社会が描かれているから、好きなのだと思います。

子どもの頃は『サンダーバード』、そして、30を過ぎてから影響を受けたのが『スター・トレック』シリーズなんです。特に1980-90年代のシリーズ『新スター・トレック』と『スター・トレック ヴォイジャー』はお勧めです。ジーン・ロッデンベリーという原作者の世界観が、とにかく深く広い。いろんな意味合いの中で、人間が理想の未来を築くには、どういう哲学や背景、プロセスが必要かをベースにして作っている。

『新スター・トレック』ではジャン=リュック・ピカードという男性、『ヴォイジャー』ではキャスリン・ジェインウェイという女性が艦長なのですが、2人が非常に魅力的で優れている。様々な問題がいろいろな形で起こるなかで、トップとしてどうあるべきかが真摯に深く描かれている。

例えば、「転送」という一瞬で人間なり物質なりを粒子に変えて送るシステムがスター・トレックの世界にはあるのですが、ある時2人の乗組員が転送装置の故障によって1つになってしまう。元々の2人は対照的な性格で、1人はクールを超えた論理的過ぎる思考を持つ男で、もう1人はおちゃらけキャラで、あまり思慮は深くないけれど、とにかく皆を楽しませる、というタイプ。

この2人が一緒になって、なんと理想的な人間ができてしまう。ユーモア満載で、かつものすごく論理的な思考を備えていて、皆の人気者になるのですが、艦長は2人を元に戻す決断を下す。しかしその時、彼は訴える。「私を死刑にするのと同じだ!」と。艦長はすごく悩む訳です。

しかし、最終的に「死刑執行」し、理想的人格の彼を分けるのです。これはある意味、多様性を重んじる価値観です。9.11以前のアメリカだからできたことでもあると思うのです。これからトランプ大統領の登場によって、より分断された世界が進むかもしれませんが、スター・トレックの世界にはさまざまなタイプの異星人、人間、AIがいる。一隻の宇宙船の中でそれをどうまとめていくか、混迷の時代のリーダー像を提示してもらえる気がします。

私は、「真似る」ことは生きることにとって重要だと思っているのですが、映像から受ける「カタルシス」はとても強力なエンジンになる。実世界でも「ピカード艦長だったら、ジェインウェイ艦長だったらこの状況でどんな判断を下すか、どんな態度を示しすか」と考えることがあります。ビジネスにおいても、自分が理想になるための土台作りは、実は映像から強く刷り込まれる、ということはあると思いますね。

1.『新スター・トレック』シーズン1〜7 

各BOX:4,757+税/発売元:パラマウント ホーム エンタテインメント ジャパン

スター・トレック史上、最高の人気を誇るシリーズ。宇宙船エンタープライズの未曾有の冒険譚。魅力的なキャラクターと緻密で奇想天外なストーリー展開で魅了する。

2.『スター・トレック ヴォイジャー』シーズン1〜7 

各BOX:4,757円+税/発売元:NBCユニバーサル・エンターテイメント

1995年から2001年にかけてアメリカで放映されたTVドラマシリーズ第4作。地球から75,000光年のデルタ宇宙域に飛ばされたU.S.S.ヴォイジャー号の帰還の軌跡を描く。

3.『サンダーバード DVD-BOX』

DVD:17,200+税/発売元:NBCユニバーサル・エンターテイメント

大惨事から人々を救出する国際救助隊の活躍を描く特撮人形劇。全世界で今も熱狂的な人気を誇る、1964年に制作されたTVシリーズ。


波多野聖(はたの・しょう)◎1959年生まれ。内外の投資機関でファンド・マネージャーとして活躍。2012年角川春樹に見いだされ小説家デビュー。2016年1月号より、弊誌巻末にて近未来経済サスペンス小説『バタフライ・ドクトリン─胡蝶の夢─』を絶賛好評連載中。

構成=岩坪文子、飛松紅葉

この記事は 「Forbes JAPAN No.31 2017年2月号(2016/12/24発売)」に掲載されています。 定期購読はこちら >>

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