学術誌「サイコロジカル・サイエンス」に掲載された論文によると、私たちは自分の顔の筋肉を少しも動かすことなく、相手に自らの優位性を伝えることができるという──その方法は、頭(顔)を少し下に傾けて、相手の目を見ることだ。
カナダのブリティッシュコロンビア大学で行われた実験では、顔の角度を上向きに10度、または下向きに10度傾けたアバターと、真っすぐ前を向いたアバターを用意。それぞれに対して支配的な人という印象を持つかどうかについて、参加者らに評価してもらった。
参加者から回答を得た質問には、以下などが含まれる。
・この人は、他人より優位に立つことを楽しむような人だと思いますか?
・この人は、他の人たちの希望を聞かず自分の思いどおりにしようとすることが多そうですか?
参加者たちの多くは、その他2つに比べ、顔を下に傾けているアバターを「支配的な人に見える」と評価した。アバターではなく人の写真を使って行った実験でも、結果は同様だった。
論文の著者らによれば、「真っすぐ前を見ている人の顔は、話しかけやすい人との印象を与える場合が多いと考えられる」。また、「顔の角度を少し変えることは、社会的認識に大きな影響を及ぼす可能性がある。それは一部に、角度の変化が顔の表情に大きく影響し得るためだ」という。
別の実験では、研究チームは相手が受ける印象に大きな影響を持つのが目と眉毛であることを確認した。目と眉毛の部分を隠した顔を見てもらった場合、傾けた顔の角度は印象に影響を与えていなかったのだ。
一方、顔の角度を変えて前を見ているときの「目と眉下の部分だけ」の写真を見てもらった場合には、顔全体の写真を見せたときと同じ印象を与えていた。つまり、目と眉下は相手の印象を決めるのに不可欠であると同時に、それだけでも十分な情報であると考えられる。
その他の実験では、そうした印象を与えるメカニズムも明らかになった。顔を下に傾けると眉間にしわが寄ったように見え、相手はそれを「表情の変化であると錯覚」する。それが、与える印象を変化させるというのだ。
顔を傾けたときに眉が動いたように見えること以外には、印象に影響を及ぼす要因として説明がつくものは確認できなかったという。著者らは今後、他のどのような顔の動きがどのような情報を伝える可能性があるのかについて、実験を行う予定だ。
一方、今回の実験結果は、自分をもう少し優位に見せたいときに取り入れることができる戦略があることを示したものともいえる。この方法なら、表情を変えることで相手に自分のその他の感情を伝えてしまう心配もない。
著者らは、顔の角度を変えることは、顔の表情が伝える情報を分かりにくくする「ノイズ」だと考える人もいるかもしれないと述べている。だが、それでも顔の角度は、表情を変えることなく顔で相手に情報を伝達するための手段と捉えるべきだという。
無表情であるはずのときの顔も、考えられている以上に多くのことを伝えているかもしれない。