──アートビジネスのモデルとなる国や地域とは?
施井氏は「やはりニューヨーク市場ですかね。市場が大きいだけでなく、先進性や実験性を保ちながら作品販売をする工夫が随所で行われていてすごいです」と王道、ニューヨーク市場の大きさだけではなく、メカニズムとして成り立っている面白さを話した。
石上氏はニューヨークだけでなくフランスやイタリア、イギリスなどのアート市場への姿勢に触れた。「自国から出るものを世界のスタンダードにしたいというパワーがどの国も強いんです。共同幻想で信じ込ませるというか、実際に歴史を通して美を浸透させてきてるんですよ。日本も負けずに、日本の美を世界のスタンダードかにしていくべきだと思っています」
──感性を社会の普遍的な数式としてビジネスに落とし込むには?
「テクノロジーを活用することで数式のように客観的で再現性のあるかたちで感性をアウトプット出来るようになるかもしれません。たとえば、ディープラーニングを活用することで難しかった「芸術を言葉で伝えること」がアプリ化などで再現可能な形でアウトプット出来るようになるかもしれません。冒頭ではアートマーケットにおいて日本がイニシアチブをとれてこなかった歴史が国民のアートとの距離を遠ざけている可能性について言及しましたが、そのようなテクノロジーサポートの延長線上では日本人が脊髄反射的に拒絶するような状態ではなく、文化的に許容できる様式を採用した状態で世界を舞台に戦えるようになる日が来てもおかしくないと考えています」と施井氏は語った。
一方、石上氏は「僕の持論なのですが、感性は数式で表せないと思っています。コンセプトを言葉で定義してあたかも美であるようにする風潮ではなく、内在的に持っている普遍的な美を大切にしたいと思っています。言葉で物事に区切りを付ける考え方ももとは西洋の宗教観や文化がもとになっているのかなと。これからは西洋がリードするアートの時代は終わるのではないかとも考えます。どれだけ日本から日本の美を世界に伝えていけるかが僕たちの挑戦です」と話した。
(石上賢氏)
「アート市場がどのように回っているのかわからない」「アートって実際お金になるのだろうか」そんな疑問が私たちの頭によぎる中、ビジネスをもってアート界に変革を仕掛けていく施井氏と石上氏。
彼らが訴えた「日本のアートのスタンダード化」こそ、今回のイベントの「本気」のメッセージだったのではないだろうか。