(左から)スパイバー代表執行役 関山和秀、ゴールドウイン取締役 渡辺貴生
「これまでは失敗の連続だった。けれど、やっと、ようやくスタートラインに立てました」
そう話すのはスパイバー代表執行役の関山和秀だ。スパイバーは地球上で最も丈夫な「クモの糸」に着目し、人工合成クモ糸繊維を開発している企業。その技術を活用してアパレルのみならず、人工毛髪やタイヤ、航空宇宙関係など幅広い領域に最適化した研究開発を行っている。
スパイバーとゴールドウインの関係は2015年に遡る。4年前、両者はスパイバーが研究開発をしている人工クモの糸「QMONOS(クモノス)」を使った「MOON PARKA(ムーンパーカ)」と、翌2016年の一般発売の発表を行った。
「QMONOS」とは人工的に合成したタンパク質素材。地球環境に配慮し、プラスチックや動物由来の素材を一切使用せずに開発された繊維素材である。
ところが、その後発売は延期になり、2019年6月現在もまだ販売には至っていない。その理由を関山は「クモ糸が持つ特性である、Super Contraction(超収縮)を制御しきれなかった」と話す。
「乾いた状態であれば丈夫で全く問題ない素材なのですが、水に濡れた途端にゴムのように伸び縮みしてしまう特徴(=超収縮)があり、それをコントロールしきれなかった。それでは商品としても成立しないし、ゴールドウインさんが設定している厳しい品質基準を満たせないため、延期せざるを得ませんでした」
世界一丈夫なクモの糸を人工的に作り出すことができれば、様々な領域に応用することができる。そう意気込んでいたなかでの失敗に、「私が考えていたことは、すべて幻想だったのか」とも思ったという。
「根本から開発を見直さなければいけなかった」とゴールドウイン取締役の渡辺貴生。振り出しに戻った人工合成タンパク質素材の研究だが、そこからさらに細かな検証を繰り返し、数多くの特許も取得した。
「タンパク質は20種類のアミノ酸で構成されています。膨大なアミノ酸の組み合わせパターンから、我々は細胞骨格やクモの糸のような構造的な役割を果たす“構造タンパク質”に着目しています。これは微生物による発酵プロセスで生産されるもので、石油などは一切使用しない自然由来の原料。現在は弊社独自の技術によって、多様な特性や形状の素材を作り出すことができます」(関山)