2008~2010年に発掘が進んだこの遺跡からは、紀元前2000年頃に使用された道具が見つかっている。その後は埋葬に利用されていたようだが、ミイラが発見されていないことから、何者かによって荒らされたと考えられている。
ニュージーランドのオタゴ大学のMelanie Miller教授が率いる考古学者チームが先日、米国科学アカデミー紀要で発表した論文で、この遺跡から見つかった道具の分析結果が明らかになった。
儀式用のセットには、高度な彫刻や装飾が施された吸引用の木製タブレット2つが含まれていた。また、人型の彫刻が施された吸引用チューブもあった。
ノースカロライナ大学シャーロット校の生物考古学者Sara Juengstは、今回の発見は驚くべきものだと述べた。「私の知る限りでは、今回のようなキツネの鼻で出来たキットはこれまでなかった。非常に意義深い発見だ」
研究チームが道具の炭素年代を測定したところ、905~1170年のものだと判明した。また、キツネの鼻のポーチから採取した物質を調べたところ、「コカインやベンゾイルエクゴニン、ハルミン、ブフォテニン、ジメチルトリプタミン(DMT)などの、5つの向精神性の化合物が入れられていた」という。
この地域でコカの葉やコカインなどの幻覚剤が見つかるのは珍しいことではない。現地では伝統的に、コカインの興奮作用で高山病や消化器系の疾患を和らげるために、コカの葉を噛んだり、茶の中に含ませたりすることも多かった。
南米で発見されたスペイン侵略以前のミイラからも、コカインの痕跡が検出されている。今回のポーチから検出されたコカインも、医療や宗教的な目的で超自然世界とつながるために用いたものと考えられる。
また、今回見つかった複数の幻覚剤の化合物は初期の段階のアヤワスカだったと推定される。アマゾンの由来とされるアヤワスカは、強力な幻覚作用を引き起こすもので、シャーマンたちが幻覚作用を得るために服用していたとされる。
ジョンズ・ホプキンズ南京センターの考古学者Di Huは、「これらの薬物の痕跡が毛髪からではなく、植物や道具から見つかったのは珍しい」と述べた。
さらにHuは、植物が異なる地域から採取されたものであることに着目し、「これらの植物の、広範囲に渡る交換ネットワークが存在していたことを示唆する」と分析した。
研究チームは、発見された植物の数から、幻覚作用のある植物が遠くまで運搬されていたと指摘し、「人々は植物に関する深い知識を持っており、それを宗教的儀式で用いていた」と結論づけた。