そんな「AI社会」への変遷期にある昨今、MIT Sloan校のMichael Schrage氏が興味深いコンセプトの提唱を行っている。人工知能、また人間と人工知能の関わりの未来を示す重要なキーワードとなりそうなので紹介したい。
「便利屋」以上の存在に
まずひとつが、AI(Artificial Intelligence)を「Augmented Introspection」、すなわち「拡張内省」と理解する立場だ。
少々難しい言葉だが、例えば、身近なAIを浮かべて欲しい。「Siri」や「Alexa」などのAIアシスタント、また検索アルゴリズムなどはユーザーの利便性を高めてくれるものの、あくまで「便利屋」の域を出ない。誤解を恐れず言うのであれば、「執事」や「世話人」などのように、ユーザーの面倒を肩代わりしてくれるだけの存在である。
Schrage氏は、AIがそのような用途にとどまらず、人間の内省や成長を促すツール、すなわち「拡張内省」の機能を持つよう発展すべきだと説く。AIには人間には到底及ばないスピード、また回数で未来を試行錯誤するシミュレーション能力があるが、それらを人間の発展のために使うのが正しい使い道だと言うのだ。
例えば、マイクロソフトとカリフォルニア大学ロサンゼルス校(UCLA)は、「70歳になった時の顔を予測するAIモデル」を開発。人々の反応を伺った。すると、可視化された未来の自分に触れた人々は、より運動に励むようになったり、資産運用について熟考しだすようになったという。
Schrage氏は、従業員が自分と向き合うことができるAIを、企業が積極的に導入することもすすめる。企業活動の現場において、AIによる自動化で人的リソースを減らすことに注力するのではなくて、人間の成長に使おうという立場である。同氏は、自分の未来をシミュレーションしてくれる人工知能を含むソフトウェア全体を、「SelvesWare」とも表現する。
脱・宝の持ち腐れ
「Return on Data Asset」(RODA)という言葉も、AI時代の重要な物差しのひとつとなるかもしれない。これは「データ資産を活用して生産された収益」という意味合いになる。昨今、データは「次世代の石油」と表現される通り、企業の重要な資産に位置付けられている。しかし、いかに膨大なデータを保有していたとしても利益に結びつけられなければ“宝の持ち腐れ”である。まだRODAの計算・集計方法は確立されていないが、いずれ優良な企業を見抜く指標のひとつになっていくかもしれない。
AIガ人間の役に立つテクノロジーになるためには、使い方のコンセプトや言葉の整理がとても重要になってくる。今後、人工知能を取り巻く新しい言葉の登場に注目したい。
連載 : AI通信「こんなとこにも人工知能」
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