遅すぎたマレーシア首相の決断 逃げ切れなかった中国の「わな」

(How Hwee Young - Pool/by Getty Images)

マレーシアはすでに、中国が張り巡らせたクモの巣にかかっていた。そして、そこから逃れることはやはりできないようだ。

マレーシアのマハティール・モハマド首相は、中国主導で進められてきた東海岸鉄道(ECRL)プロジェクトのコストを3割ほど削減することで同国の合意を取り付けた。だが、それはただ、中国を交渉テーブルに引き出すことができたというだけのことに過ぎなかったとみられる。

マハティールは昨年行われた連邦下院選で勝利するとすぐに、中国がマレーシアで手掛ける注目度の高いいくつかの事業を中止すると発表。自国の運命は自ら決めるという意志と決意を示す強いメッセージを、中国に送った。

首相が中国の債務のわなに掛かることを避けようとしたのは明らかだ。すでに何カ国かが、債務を理由に国内の事業の運営権などを中国に譲ることを強いられた。マハティールはフィリピンのロドリゴ・ドゥテルテ大統領にも、中国の債務のわなを回避しなければならないと助言。同様の立場にある各国にも、自身の見解を伝えてきた。

だが、中国に対するマハティールの抵抗は長続きしなかった。マレーシアはECRLのコスト削減を発表したその翌週、中断していた首都クアラルンプールの大型再開発計画「バンダル・マレーシア」を再開すると発表した。

事業は従来どおり、同国のイスカンダル・ウォーターフロント・ホールディングスと中国の中鉄工程(CREC)が設立した合弁会社が請け負う。地元のリソースを活用し、手ごろな価格の住宅1万戸などを建設するという。

マレーシアが中国に対する態度を軟化させている理由は、どこにあるのだろうか。

理由としては、いくつかのことが考えられる。その一つは、プロジェクトの回収不可能な「埋没費用」が多額に上ることだ。今後、この事業に別の出資者を見つけることは難しいだろう。

さらに、マレーシアが輸入を中国に頼っていることがある。昨年の輸入先の第1位は中国で、輸入額は約425億ドル(約4兆7500億円)だった。輸入先の上位は次いでシンガポール、米国となっており、輸入額はそれぞれ、357億ドル、331億ドルだ。マレーシアがどのような「不合理な」行動を取ろうとも、それには中国が多大な影響力を及ぼしているということだ。

また、世界各国・地域の経済データを提供するトレーディング・エコノミクスによると、マレーシアの輸出額は今年2月、前月の前年比3.1%増から一転し、予想外の大幅な減少を記録。同-5.3%の666億リンギ(約1兆7900億円)となった。

パーム油と関連製品が13.4%(47億リンギ)のマイナスとなったほか、石油製品が-30.9%(36億リンギ減)、原油が-21.8%(19億リンギ減)、木材と関連製品が-1.7%(14億リンギ減)、天然ゴムが-23.1%(2億リンギ減)となっている。

マハティール首相が中断していたプロジェクトの再開を認めると決断したことと、これらは偶然、時期が一致しただけのことだろうか?

編集=木内涼子

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