ウォール・ストリート・ジャーナル(WSJ)は、会談当日の朝刊で、「これまですべての米国の努力が無に帰した今、トランプのリスクをとったアプローチは期待以上の結果を出してくれるかもしれない」と、トランプを前のめりに評価しながらも、「ただし、懐柔にくる北朝鮮の手に乗ってはいけない」と警告した。
一国の外交においては、トップ会談の時にはすでに事務方で協議がほぼ終えてあり、トップは食事をともにし、歓談し、あとはサインをするだけというのが通例である。なので、メディアも大ニュースに値する平和合意を期待していたが、トップが会談しながらもなんの声明文も出せないという「決裂」に終わるとなると、メディアも驚きを隠せず、トランプの会談までのプロセスを厳しく批判している。
ニューヨーク・タイムズは、「一対一外交のリスクが顕在化した」との見出しをつけ、トランプ側の準備不足を指摘し、「みんなが驚いた」と現地のプレスルームの失望感を伝えている。さらに、「こんなことはあってはならない」と外交専門家のリチャード・ハース氏のコメントを引用し、ボス(大統領)の過剰な自信に煽られて相手の誠意を信用し、準備が拙速に過ぎたとトランプチーム全体への批判を展開している。
コーエン被告の証言をセットで報道
米朝首脳会談のニュースは世界中で伝えられているだろうが、アメリカのメディアに特徴的なのは、このニュースを、同時タイミングでワシントンDCで行われたトランプの元顧問弁護士マイケル・コーエン被告の公聴会での証言とセットで報道していることだ。コーエン被告が「トランプは人種差別主義者、詐欺師、ペテン師だ」と証言したシーンが、ありとあらゆるニュース番組で首脳会談と並んで報道されていた。
会談前はリスクを取りに行ったトランプを評価していたはずのWSJも、翌朝の28日では金正恩と堅い握手をしている写真を1面に載せながら、その上に、トランプがコーエンに渡したとされるポルノ女優との不倫の口止め料の精算小切手をコピーで載せている。
それもニュースだと言われてしまえばそれまでだが、その報道姿勢には疑問も残る。戦後、すべての大統領がうまくいかなかった案件に対して、トランプはリスクを取りに行って1年に2度も会い、そして、北朝鮮側に懐柔されることなく、用意された声明文に署名をせず、席を立った。それはメディアも納得のアクションではなかったのか。
結果が出ず、恥をかいたトランプを、ここぞと責めるのは簡単だが、しかしいわゆる官僚同士による事務方協議では、こと北朝鮮に限ってはなにも生まれないことは戦後70年の歴史が証明している。
さらに、コーエン証言のダメージを払拭するために金正恩との交渉で成果を上げる下心ではとの事前に報じた批判も、実際に妥協案にさえ署名しなかった結果をとらえ、「コーエン証言があったからトランプはもっと大きな取引が必要だったのだ」と言い訳のような証言をとって載せている(ニューヨーク・タイムズ)。さらに、同紙は安倍首相のノーベル平和賞へのトランプ推薦問題にも皮肉をこめて触れている。