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2019.05.05

日本の通信業界の「破壊者」目指す、楽天CEO三木谷浩史の覚悟

Nadine Rupp / Gettyimages

楽天CEOの三木谷浩史はリスクを恐れていない。三木谷は今後の10年間で55億ドル(約6150億円)を「楽天モバイル」に注ぎ、2028年までに1000万人の顧客を獲得することを目指している。

現在54歳の三木谷はフォーブスが4月に公開した「日本長者番付」で5位に入り、推定資産額は60億ドル(約6670億円)とされた。

楽天はEコマースやインターネット銀行、ポイントサービスなどを通じて確立した楽天ブランドを活かし、通信業界で新たな勢力となることを狙う。楽天モバイルは今年の10月から日本の大都市を中心に始動し、その後、全国にサービスエリアを広げていく。

「当社のエコシステムを活用することで、比較的低いコストで顧客が獲得できる。私の考えでは顧客らは通信企業のブランド名をさほど意識していない。利用者にとって大事なのは、通信の安定性やスピード、価格、そしてどのようなサービスが受けられるかだ」と三木谷は話した。

楽天は既にNTTドコモやKDDIから借り受けた回線でMVNO(仮想移動体通信事業者)事業を展開しているが、今秋からドコモやソフトバンク、KDDIと並ぶMNO(移動体通信事業者)としての事業をスタートする。

日本の通信業界に挑戦を挑むのは三木谷が初めてではない。今年の日本長者番付で2位に入ったソフトバンクの孫正義が先例だ。孫は2006年にボーダフォンの日本法人を1兆7500億円で買収し、この分野に参入した。

投資家の間からは楽天の通信業界への参入について懸念を表明する声もあがるが、同社は今年2月、「不可能だと思われていることを、当社は実現可能であることを証明する」と述べた。

楽天は通信業界への本格参入にあたり、米国のモバイル通信分野のテクノロジー企業、Altiostar Networks(アルティオスター)と戦略的資本業務提携を結んだ。

通信業界への参入は楽天のEコマース事業にも追い風となるはずだ。市場規模870億ドルの日本のEコマース市場で昨年、楽天は17%のシェアを獲得したが、競合のアマゾンのシェアは26%だった。

日本の通信業界ではNTTドコモが38%を抑えて1位に立ち、2位のKDDIが28%、3位のソフトバンクが23%となっている。しかし、市場の89%を握る上位3社は今、政府の厳しい目にさらされ、消費者に通信回線の選択の自由を与えるよう、圧力をかけられている。

既存の市場の「破壊者」としてこの分野に乗り込む楽天にとって、政府のスタンスは追い風といえそうだ。

企業社会のエリートから「破壊者」へ

しかし、三木谷の経歴を振り返ると、彼が生まれつきの破壊者ではないことが分かる。1984年に一橋大学に入学した彼は、1988年に日本興業銀行(現みずほ銀行)に入行した。1980年代後期から90年代中盤の日本の企業社会において、三木谷が歩んだ道はエリートコースの典型といえる。

2018年に発売された山川健一の著書「問題児 三木谷浩史の育ち方」には10代の彼が学校をさぼり、タバコを吸い、パチンコや競馬に興じた様子が描かれている。しかし、三木谷は神戸大学名誉教授を務め、著名な経済学者として知られた父の三木谷良一の血を受け継いでいる。

日本興業銀行に在籍時の1991年、三木谷は同期で初めてハーバード大学に留学し、MBAを取得。その後は企業金融開発部で国際的なM&Aの斡旋を担当した。しかし、1995年に起きた阪神大震災が彼の人生を変えた。故郷の神戸が瓦礫の山と化し、親戚や友人らを失ったことに衝撃を受けた三木谷は、日本興業銀行を退職し自身でコンサルティング企業を設立した。

そして、1997年に楽天を創業。アマゾンやイーベイが勃興する中で、楽天のEコマースサイトは売上を伸ばし、2000年に上場を果たした。

ソフトバンクの孫正義と並び、日本のインターネット革命の最前線に立ってきた三木谷は、企業カルチャーの変革者としても知られている。彼は2010年に楽天の公式言語を英語にして議論を呼んだほか、2005年には放送局のTBSを買収しようとした。

2011年3月の東日本大震災の発生から3カ月後、三木谷は日本の伝統的企業が加盟する経団連(日本経済団体連合会)を離脱した。その理由について彼は、経団連が原子力発電を推進しているからだと述べた。

2012年に三木谷は、インターネット企業が中心となる経済団体「新経済連盟(新経連)」を発足させ、政府に対し様々な規制緩和を呼びかけている。新経連は政府に対し移民規制の緩和や、減税、ライドシェアの推進などを訴えている。楽天はライドシェアのリフトにも出資している。

編集=上田裕資

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