──2013年に家業である木村石鹸工業に戻られましたが、組織をつくるうえで意識してきたことはありますか?
集団における個人の役割というのは勝手に決まっていくものなので、僕が先陣切って指示を出すようなことはしてこなかったですね。
社内では案件毎にプロジェクトチームをつくりますが、その時設定されたテーマや状況に応じて、リーダーは柔軟に変わるんですよ。だから、一応組織図はあるのですが、ほとんど意味を成していないです(笑)。ヒエラルキーをつくって、カチッと役職にはめ込むよりも、自然に役割が生まれるような環境をつくるほうが大切だと思います。
ナオライさんの関わるお酒づくりにも同じことが言えるのではないかと思います。発酵に必要な環境を整えたら、あとは菌が酒を醸すのを「待つ」だけじゃないですか。会社においても、自由に意見が言えて、発想を持てて、チャレンジができる「環境」と、万が一失敗しても大丈夫という「安心感」をつくって、あとはじっくり待てばいい。
──社員一人ひとりが自発的に動く環境づくりを徹底されているのですね。そんな中での、社長である木村さんの役割とは何でしょう?
「文化」をつくることですかね。文化は社長の日々の言動で形成されるものだと思っています。
インフルエンザにかかった社員から1週間休みたいと言われた時に、「なにこの忙しい時に休んでねん。予防注射打ったんか」と言うのと、「1週間、皆で協力すれば代替えできるからゆっくり休め。完全に治してから来いよ」と言うのとでは、相手の受ける心理的安心感が全然違うじゃないですか。
商品開発の際も「失敗した時にどう責任とるねん」ということをちょろっとでも言ったら、新しいアイディアやクリエイティブな発想は生まれなくなってしまう。だから、日々の言動は凄く意識していますね。
──そのような社内コミュニケーションの良さが、木村石鹸が生み出す「安心・安全」という価値観に裏付けられた商品にも繋がっている。
三代目社長の父は、業務用浴場洗浄剤を開発しました。元々、銭湯の床を洗う洗剤は強い酸性のものが主流でしたが、掃除中はマスクをしないとむせ返るは、タイルは痛むはで、作業する人への負担が大きかった。それを石鹸で代用できないかと考えたわけです。
ただ風呂床はアルカリ性の汚れが多いのに、アルカリ性である石鹸で落とすということは当時の感覚からしたらナンセンスで、誰もやっていなかった。だけど、父は毎晩営業終了後の銭湯に通い詰めては研究を重ね、数年後にようやく商品を完成させました。使う場所にも、人にも優しく、さらに石鹸なので安全性が高いということで一気に世の中に普及しました。
やはりルーツを辿ると、使う人や環境に「安心」や「優しさ」を提供するという想いが、会社の核となっているんです。それを僕がを絶やしてはダメだと思っています。