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小説や企業ルポで当たり前のように目にするようになった「『蛍の光』が流れ始めた」という表現。いまや『蛍の光』といえば終業、帰宅を象徴する楽曲だ。

そんな『蛍の光』に代わる「帰宅の代名詞」を生み出す試みが始まっている。USENが東京藝術大学との共同研究を経て制作した「帰宅を促す音楽」だ。この楽曲は、2019年2月からUSENのオフィス向け音楽配信『Sound Design for OFFICE』で聴くことができる。

BGMを流すオフィスや作業中にイヤフォンを着けて作業する人々など、いまではすっかり当たり前の「オフィスで音楽を聴く」という行為だが、一昔前には多くの人が眉間にしわを寄せるほどに信じられない行為だった。その普及に大きく貢献しているのが、有線放送業界で長年シェアを誇るUSENだ。

なぜUSENは、それまでの店舗向けサービスだけでなく、オフィス向けの音楽に注力するのか。そしてそんな彼らがリリースした「帰宅を促す音楽」とは?

「帰宅する人の気持ち」に寄り添ったオリジナルの3楽章

「帰宅を促す音楽」は、帰宅の代名詞だった『蛍の光』とどのような点が異なるのか? USENの広報を担当するUSEN-NEXT HOLDINGS 広報部のマネージャー、清水さやかによれば、それは「帰る気分を醸成して、帰宅を促すことにアプローチする点」だという。逆に言えば、そもそも『蛍の光』が帰宅時に最適な科学的根拠があるかどうかは、明らかになっていない。

「『蛍の光』を聞いて終業や帰宅を思い出すのは、昔から多くの店で流れているから。あくまで刷り込みのようなものだと思っています」

それを踏まえて、「帰宅を促す音楽」は、文字通り「聞いたら自然と帰宅したくなるような音楽」として設計。東京藝術大学音楽学部音楽環境創造科の亀川徹・丸井淳史准教授の協力を受け、音響心理学に基づいた研究が行われた。

制作の際に用いられたのが、「同質の原理」だ。これは、暗い気持ちの際に励ましになるような明るい曲を流すのではなく、暗い楽曲を流すその時々の気持ちに寄り添う手法。

亀川らが、帰宅する人々がどのような気持ちなのかを研究し、要素を抽出。それをもとにUSENで楽曲をつくった。帰宅前に感じる3つの心情に合わせて3つの楽章で構成された楽曲で、自然に帰宅を促すつくりになっているという。

まず第1楽章では、ピアノがメイン。「仕事が捗らない状況で感じる不安な気分」をイメージさせるメランコリックな曲調が展開される。続く第2楽章ではギターを加えてスピードも上がって、「仕事が順調に進む」イメージを表現。最後は、チェロとフルートを加え、仕事を終えてオフィスを出る快適な気分」が賑やかに演出される。

筆者も実際に聞いてみたが、特に第1楽章はかなり暗い印象だ。その後は繊細な響きを維持しながら、徐々に明るく、最後は賑やかにフィニッシュを迎える。3つの楽章はそれぞれ30秒程度と短いが、曲調の変化に違和感はなく、リピートしても自然と聴き続けることができる。

文=野口直希

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