吹き替えについては、プロの言語学者や優秀な翻訳者たちとともに作品を観ながら翻訳を行い、それをもとに一語ずつ吹き替えの対応を行っていくという。
「楽しい、面白いといった感情は普遍的なもので、どの地域に住んでいるか、どの言語を話すか関係ありません。私たちがすべきことは、話す言語に関係なく、メンバーが自分の趣味趣向にあったストーリーを見つけられるようにする、作品が持つ意図をきちんと伝え、同じ感情を呼び起こせるようにするといったことです。そのためにコンテンツの内容を確実に翻訳し、内容を正しく理解できるように作品の概要を書きます。全世界のメンバーを喜ばせるためにはローカライズは必要不可欠です」(キャシー)
文化的背景を踏まえ、作品のタイトルもローカライズ
また、作品のタイトルは各国の文化的背景を踏まえて、ローカライズしていく。キャシーが例に挙げたのは「Casa de Papel(ペーパー・ハウス)」のタイトル。スペイン発の同作品は口コミをきっかけにスペイン以外の国でも大ヒット。
ブラジルではフットボールスタジアムにサルバドール・ダリのマスクを着けた人がいたり、作品中で歌われている「Bella Ciao」を歌った動画がアップされたりした。またトルコではLa Casa de Papelをテーマにした料理店がオープンしたほど。
こうした一種のムーブメントを起こすほどのヒットに至ったのも、タイトルをローカライズしているからだ。
「作品のタイトルはメンバーが作品のことを気に入り、それを家族や友人に伝えるときに使うものなので、とても重要です。だからこそ私たちはプロの言語学者たちとグループをつくり、各国で適したタイトルをつける努力を行っています」(キャシー)
「La Casa de Papel」というスペイン発の作品を例にとると、フランスに住むフランス人向けには原題を翻訳せずに使用した。一方、カナダのフランス人はフランス語の翻訳に慣れ親しんでいるため、カナダでは「La Maison de Papier」にタイトルをローカライズしている。
「こうした新しいタイトルが、元のタイトルよりも好奇心を呼び起こすことがあります」とキャシーは言う。英語ではMoney Heistになり、日本ではペーパー・ハウスというタイトルがつけられている。
良いストーリーは言葉の違いに関係なく人々を結びつける
一方、作品ごとに数種類のサムネイルを制作し、サービス上での体験のパーソナライズ化を図るのがプロダクト・クリエイティブチーム。そこでディレクターを務めるエリザベス・ゴールドスタインはチームの役割について、こう語る。
「編集クリエイティブチームがコンテンツの内容を深く理解し、それをもとにあらすじを作成します。それをもとに私たち彼らはあらすじを作成することによって、タグによって、そして私たちプロダクト・クリエイティブチームが作品ごとに複数のサムネイルを用意しています」(エリザベス)
プロダクト・クリエイティブチーム ディレクターのエリザベス・ゴールドスタイン
人それぞれ好みが異なるからこそ、単一のサムネイルではなく複数のサムネイルを用意し、興味を持ってもらいやすくする。では、いかにしてサムネイルを作成しているのか。
「私たちはショーを複数のテーマに分割し、そのテーマをもとにサムネイルを作成します。作成する上で重要なことは、すべてのサムネイルが作品を代表するシーンであり、なおかつコンテンツの内容に忠実であることです」(エリザベス)
サムネイルの表示方法については、各メンバーの視聴習慣を分析し、似たような視聴習慣を持っている人たちをグループ化し、サムネイルを表示させているという。もちろん1度表示させて終わるわけではなく、反応率を分析し、適宜表示するサムネイルは変えていく。
韓国発のオリジナルドラマ『キングダム』のサムネイル。この作品だけで21種類のサムネイルが用意されている。
「反応されるのは喜ばしいことですが、たくさんクリックされたから成功、クリックされなかったから失敗だとは思っていません。そのサムネイルが誰かひとりでも興味を喚起することができたら、成功だと思っています」(エリザベス)
コンテンツとテクノロジーを融合させ、素晴らしいストーリーを最適な形で全世界のメンバーに届ける努力をし続けているネットフリックス。それは、住んでいる地域や話す言語に関係なく、あらゆるストーリーが人々を刺激し、グローバルで視聴される可能性があると信じ続けているからである。
「私たちは良いストーリーの力を信じています。良いストーリーは言語の違いに関係なく人々を結びつけることができるんです」(エリザベス)