「我々がサービス志向の時代を生きていることを、サティアはよくわかっている」
受注用のアプリにマイクロソフトのサービスを使用するスターバックスは、10人ほどのエンジニアを、マイクロソフト主催の世界最大のソフトウェア関連イベントに参加させた。これもまたナデラ時代になってからのことだ。「伝統的なソフトウェア会社とはアプローチが違うからね」と、スターバックスのジェリ・マーティン・フリッキンジャー最高技術責任者(CTO)は言う。
社員、顧客、取引先の満足度向上へ
ただ、この新たな成長には注釈も付く。マイクロソフトの復権は、既存の顧客をクラウドサービスや「オフィス365」へと移行させたことに負う部分が大きいのだ。そのため「手の届く高さの果実」を収穫しているだけではないかという懸念が出されていると、米証券会社ウェドブッシュのアナリスト、ダン・アイブズは言う。
それにゲームや検索、タブレットなどのデバイスをも含んだマイクロソフトの事業の幅広さは大きな強みではあるが、この会社は再び成功によって足をすくわれる可能性を残す。
「かつてのような日々に戻ってしまうことが彼らのリスクだ」と、英バークレイズのアナリスト、レイモ・レンショーは言う。とはいえ、アイブズもレンショーも株価に関しては強気だ。
14年にマインクラフトの開発元・モヤンを25億ドル(約2700億円)で、16年にアプリ制作ツール会社のザマリンを4億ドル(約428億円)で、そして本記事冒頭のリンクトインなどの買収に続き、今やギットハブも手に入れたナデラのチームは、顧客に長期契約を強いるなどの悪習に陥ることを避けなければならない。
買収した各社をいかにマイクロソフトに溶け込ませていくかが──その困難さは歴史が示唆しているところだが──ナデラにとっての試金石ともなるだろう。
この難局を乗り切るにあたり、ナデラは自らのある持論に信を置いている。すなわち社員や顧客、取引業者の満足度が向上するほど、マイクロソフトのビジネスも発展するに違いないという考え方だ。「成功したプロダクトは、その周囲により多くの成功を育むものだ」と、ナデラは言う。
そうした成功の実現のためには、ナデラは新たな幹部を重用する必要があるだろう。たとえばザマリンの共同創業者だったナット・フリードマンだ。冒頭でナデラが質問を投げかけた「新たに迎えた部下」とは他でもなくこのフリードマンのことであり、ギットハブがマイクロソフトの傘下に入ってからは彼がその舵取りを任された。
フリードマンの新たな仕事には、ギットハブの3100万人の開発者にナデラのメッセージを伝道することも含まれる。彼が言うとおり、人々はまだマイクロソフトに全幅の信頼を寄せているわけではないのだから。
サティア・ナデラ◎インドの大学で電子工学を学んだ後に渡米。シカゴ大経営学修士(MBA)。米サン・マイクロシステムズ(現オラクル)を経て、1992年、マイクロソフト入社。クラウド・法人部門を率いる上級副社長を経て最高経営責任者(CEO)に就任。マイクロソフトを時価総額世界一へと「復権」させる。