制限時間は20分。即興で学生たちがアイデアを考える
当日イベントに参加したスタンフォードの学生たち。各チームが活発に議論し、事業アイデアを披露した。
こうしてスタンフォード生たちは、SOMPOが保有している性別や生年月日といった契約情報のほか、住宅の構造、級別や家族構成、事故理由などのデータや公開されている公共データなどを活用し、新しい事業のアイデアを考えることになった。
一方の日本特殊陶業は既存事業に依存しているだけでは時代の変化に対応できないと考え、18年4月にシリコンバレーオフィスを開設。有望なスタートアップと提携し、新規事業の立ち上げを推進している。そうした状況を踏まえ、さらにオープンイノベーションを加速させていくために、「シリコンバレーオフィスにはどんな仕掛けが必要か、自由にアイデアを考えてみてください」と担当者は学生たちに語りかける。
学生たちは4名ほどのチームに別れ、それぞれアイデアを考えていく。彼らに与えられた時間は1社20分ほど。全員がすぐさまノートパソコンを開き、Googleドキュメントにアイデアを書き込む。さすがスタンフォード生と言ったところだろうか。10分もしない間に3ページほど埋まっており、羽根は「これほどのスピードでアイデアが生まれたのは初めてのこと」と驚嘆する。どのチームでもスマートフォンやパソコンを使いながら活発に議論が交わされており、日本のイベントではあまり見ない光景を目の当たりにした。
20分後、各チームが発表したアイデアはどれも具体的で、すぐに事業化できそうなものばかりだった。例えば、航空写真のデータをもとに自律飛行ドローンを活用して災害前、災害後に最適な対応を行うアイデアや、デジタルコンテンツ制作企業「チームラボ」とコラボしてVR(仮想現実)ラボを設立し、VRによる災害トレーニングを実施するといったアイデアが披露された。その内容を見て、企業はファイナリストとしてピッチする3チームを選出する。
SOMPOの大橋は「最新のテクノロジーへの理解があり、どのアイデアも具体的にイメージが持てて非常に面白い。ジャッジがすごく大変でした」と語る。日本特殊陶業も、「既存の枠組みに囚われないアイデアばかりで、さすがスタンフォード生だなと感じました」とコメント。彼らの考えに刺激を受けたという。
審査を経て、選出された3チームが持ち時間1分でピッチを実施。身振り、手振りを交えながら自分たちが考えたアイデアを披露していく。どのチームも1分間でピッチを終了。ドキュメント段階からピッチのことを考え、企業が抱える課題、それに対するアイデアが200文字ほどでコンパクトにまとまっていたため制限時間をオーバーすることはない。ピッチの内容を踏まえ、再度、企業が審査を行い、最優秀チームを選出する。
SOMPOが最も評価したのは、同社が保有する過去の洪水や火災のデータと気象モデルを組み合わせて台風や地震の影響が最も大きくなる場所を予測したり、Google Earth Engineを介した「GIS(地理情報)データ」と「GPS(位置情報)データ」を組み合わせて災害後も機能している道路を素早く把握できるようにしたり、「準備・緩和・回復」という3つの軸で新たな支援の方法にアプローチしたチームだった。
一方の日本特殊陶業はオフィス内の壁をなくし、壁面をすべてホワイトボードにするハード面と、定期的にイベントを開催するソフト面での工夫も提案したチームが最優秀賞に輝いた。担当者は「ハードとソフトの両方をつくる。この両面でのアプローチがすごく良かった。イベントというコンテンツがあるからこそ、いろんな人が来やすくなる」と選出の理由を語った。
約2時間にわたってスタンフォード大学で開催されたNexGen。SOMPOは、選出したチームの学生たちからイベント後に連絡が届き、事業化の方法を模索しているという。また、イベントに参加したスタンフォード生の多くが、「日本でのイベントにも参加したい」と言っており、意外とスタンフォード生の目には「日本の企業にはまだまだチャンスが眠っている」と映ったのかもしれない。日本人はよく「日本はダメだ」と現状を悲観してしまいがちだが、スタンフォード生たちのように既存の枠組みに囚われず、発想を変えていけば日本企業がイノベーションを創出していく余地は大いにありそうだ。