#MeToo運動の先駆、米最高裁判事の若き日を描いた伝記映画

ルース・ギンズバーグ役のフェリシティ・ジョーンズとマーティン・ギンズバーグ役のアーミー・ハーマー((c)2018 STORYTELLER DISTRIBUTION CO. LLC.)

ルース・ギンズバーグ役のフェリシティ・ジョーンズとマーティン・ギンズバーグ役のアーミー・ハーマー((c)2018 STORYTELLER DISTRIBUTION CO. LLC.)

JFK、FDR、MLKとアメリカには3文字のイニシャルで呼ばれる「偉人」が何人かいる。ちなみに最初がジョン・F・ケネディ大統領、次がフランクリン・D・ルーズベルト大統領、最後がマーティン・ルーサー・キング牧師だ。もちろんその業績へのリスペクトもあるだろうが、この3文字の「愛称」は、人々に長く親しまれ続けているという証でもある。

アメリカで、この3文字で呼ばれる偉人のなかに、RBGがいる。日本人にとってはあまり馴染みがないかもしれないが、ルース・ベイダー・ギンズバーグ最高裁判事のことで、現在9名いるアメリカ合衆国最高裁判所判事のなかでは最年長、トランプ政権のもとで保守派の判事が過半数を占めるなかで、リベラル派を代表する女性裁判官だ。

ギンズバーグ判事は、2016年の大統領選挙のときには、当時、共和党の有力候補者であったトランプ氏に対して、「彼が大統領になる可能性を考えたくない」と発言。政権発足後は、絵本や関連グッズも売り出され、さらにリベラル派の法律家としてメディアや国民からも注目を集めている。


ルース・ベイダー・ギンズバーグ最高裁判事(Photo by Spencer Platt/Getty Images)

昨年12月には85歳で肺の悪性腫瘍の摘出手術を受けたが、この2月には元気に復帰。アメリカの最高裁判事は終身制のため、「全力で仕事ができるうちは、この職務に留まる」と宣言、引退する意思がないことを表明している。

5分32秒のスピーチシーン

このギンズバーグ判事の若かりし頃の、女性差別との闘いを描いたのが、映画「ビリーブ 未来ヘの大逆転」だ。いまでこそ、最高裁判事として、法曹界のトップで活躍する彼女だが、1950年代のアメリカでは、女性に対する差別がさまざまなかたちで残っていた。作品は事実に基づき、強い意志でそれらの圧力を撥ね除けていく彼女の姿が描かれていく。

映画は、ルース・ギンズバーグ(フェリシティ・ジョーンズ)がハーバード大学のロースクールに入学するところから始まる。1956年、500人の全学生のなかで、女性の学生はたったの9人。学部長からは、「男性の席を奪ってまで入学した理由を述べてくれ」と皮肉まじりに問われる。


(c)2018 STORYTELLER DISTRIBUTION CO. LLC.

ルースはすでに同じロースクールの学生であるマーティン・ギンズバーグ(アーミー・ハーマー)と結婚しており、子供も授かり、家事と育児を夫と分担しながら、学業に勤しんでいた。しかし、夫ががんを発症し、看病をしながら彼の講義にも出席してノートをまとめる。その甲斐あって、マーティンは無事に卒業、ニューヨークで弁護士事務所に就職する。

夫の就職を機に、ルースはハーバードからニューヨークのコロンビア大学のロースクールに転籍。首席で卒業するが、女性である彼女に、弁護士事務所への門戸は閉ざされており、ラトガース大学で教鞭をとる道を選択する。大学では、法のもとでの性差別の問題に取り組んでいたが、「女性の残業は禁止」「クレジットカードは夫の名前でしかつくれない」など、男女差別を認める法律が数多く存在していた。

ある時、ルースは夫のマーティンから、親の介護費用控除が認められなかった男性の訴訟記録を見せられる。法律では、控除を申請できるのは女性だけとされており、これを憲法違反だと認めさせることができれば、逆に「男女平等」への第1歩となることになると考え、この裁判闘争に勝つことで、法における女性差別をなくすことをめざすのだった。

作品の観どころは、次第に応援者を巻き込んでいくルースの裁判闘争の場面だ。南北戦争後に成立した合衆国憲法修正第14条では、すべての人の法の下での平等が謳われている。これを突破口に、彼女は全力を尽くして女性差別と闘っていくことになる。

ルースを力強く演じるフェリシティ・ジョーンズが実にこの役柄に嵌っている。とくに法廷での5分32秒にわたるスピーチのシーンは、この作品の白眉だ。
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文=稲垣伸寿

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