私が食べた限り、心白さえ入れば酒米の米質が良いと言えるわけではなさそうだ。心白を出すために無理やり高温の状況で栽培する農家もいるが、それでは米の品質を悪くしてしまうだろう。
米の外側は、旨味か、雑味か?
一般的に、「米の外側の部分は脂質やアミノ酸が含まれているから雑味になる」「心白には味がない」と言われる。そのため酒米は削られ、たくさん削るほど心白だけが残って、「雑味がないすっきりとした味わい」になると言われている。
ごはん(飯米)では米の外側は「旨み層」と言われるのに、日本酒の場合はなぜ「雑味」とされているのか。東京の清澄白河の米店「ふなくぼ商店」代表の舩久保正明氏は、全てのお米に甘み、旨み、苦み、渋みが含まれ、その含有量とバランス・そして分布されている場所がそれぞれ栽培や品種により異なると考えている。
「米の外側のぬか層に含まれている成分が雑味としてあらわれるか、旨みとしてあらわれるかは、米質と精米次第」だと断言し、雑味を出さない精米を研究し続けている。
精米状態を見る舩久保氏
また、「米粒の中心部分(心白がある部分)はただのデンプンの塊で味がない」との定説にも舩久保氏は疑問を抱いている。「実際に心白まで磨き込んだ『美山錦』(酒米)でも、それぞれ味が違う。外側だけで味が変わるものではない」
舩久保氏が3回に分けて磨いた山田錦と、ぬか
酒造りには心白が必須要件でもなければ、米を磨くほど雑味がなくなるわけでもないようだ。
鈴木氏は、舩久保氏と出会って米の話を聞き学んでいく中で、「自分も含め、酒蔵は米に対して勉強不足だと痛感した」と振り返る。「あのころの自分は、酒蔵が米を削るのは、雑味があるからとか、削ればいい酒ができて結果として楽なのかもしれないなんてことしか答えられなかった」と解説する。
「『米が大事』とか『米の持ち味を生かす』とか言う酒蔵が全国にあるけど、それは本当だろうか。米が大事と言いながら、40%や50%まで米を磨いてしまう。そして、18%近い高いアルコールをだした酒を呑みやすくするため、加水をして出荷をする。そこに、本来の米の味はあるのか。削ることを否定しているのではなく、もっと削る意味を理解しなければいけないし、理解が進んだ先に初めて見えてくる景色や酒質があり、きっと本当に米で酒を語れる時が来る」と鈴木氏は言う。
米の消費量とともに日本酒の消費量も減り続けている。しかし、既存の米や日本酒の定説や常識を疑ってかかり、試行錯誤している「職人」たちの姿を見ると、楽観的と言われるかもしれないが、私はこれからの米や日本酒の未来に光を感じる。ヨーロッパのワインに比べると日本酒は歴史が浅い。「日本酒の歴史はまだまだこれから。僕たちが歴史をつくっていく」という、鈴木氏の言葉を頼もしく思った。
連載:台湾と日本のお米事情
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