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電通総研内のクリエイティブシンクタンクによる連載「NEW CONCEPT採集」

思い入れの強いものほど、人へ良さを伝えることは難しいかもしれない。一方で、伝え方にはこだわるのに、そのもの自体のこだわりが弱いものやサービスだってある。真摯なものづくりをする人たちこそ、こだわりを一旦離れて売ってみてはどうだろう。

この世には、ふたつのタイプのものがある。こだわりを持ってつくられたものと、そうでもないもの。軽くつくられたものには、それらしいこだわりのストーリーを付加して「重みづけ」をして売られていることもある。一方でこだわりを持ってつくったのに、そのこだわりが広がらず届けたい人に届かないケースもある。そんなときには「重み取り」を試してみてはどうだろう。

「重くつくって、軽く売る」を実践しているのが、鹿児島県のいちき串木野市にある大和桜酒造だ。杜氏を務める若松徹幹(てっかん)さんの朝は早い。仕込みのシーズンは毎朝5時に起きて、750kgの地元でとれた新鮮なサツマイモを洗うところから始まる。芋焼酎に使用されるもろみの原料となるのは米麹。その元となる150kgの米も手洗いする。それらの作業を基本的に一人でこなす。毎朝大量の原料を運び、洗うだけでも重労働だ。

大和桜酒造の創業は江戸時代後期。昔からの工法を引き継いで芋焼酎をつくっている。蔵を見学させてもらうと原料や工法などあらゆる部分に工夫を感じる。こだわりの数々はブランディングやマーケティングに使えそうだ。私はそんなことを考えてしまうが、若松さんは180度違うことを考えていた。

「こだわってつくるのはどこも同じ」だから、それを前面に押し出したいとは考えていない。例えば地元の「鹿児島県産米使用」をうたえば、地元の米を使用していない蔵にネガティブな印象を与えてしまうかもしれない。自分の蔵だけではなく、焼酎業界全体が盛り上がってほしいと考えているからこそ安易にそのこだわりを主張しない。

東京の広告代理店でマーケティングを手がけていた若松さんのやり方は、正攻法とは少し違う。例えば新しいラーメン屋をつくるときに、意図的に行列ができるようなオペレーションにする「行列商法」があるが、最近のお客さんはそれが意図的につくられていると気づくと若松さんは考える。

酒も流通を限定し希少価値を高めるやり方もあるが、それはお客さんにとって本当に幸せなことなのか。欲しい人が欲しい時に買える方がいいだろう。そんな考えのもと、東京など県外へも自分の友達が多いエリアの酒屋さんに卸すようにしている。ものづくりに対する「こだわり」とは対照的に、売り方は軽やかだ。

焼酎はシングル(単式蒸留)でクラフト。原料はシンプルでローカル、そして糖質もないからヘルシーだ。食に関する最近のトレンドを、焼酎はずっと前からやってきたと若松さんは言う。

前もって水で割っておいて一晩ほど寝かす「前割り」という飲み方で焼酎を飲むと、自然派ワインと同程度のアルコール度数になるから自然派ワインが好きな人におすすめしているそうだ。今では一般的になった「焼酎のソーダ割り」だが、若松さんがハイボールの流行から着想し、雑誌の企画で提案をしたのが普及のきっかけのひとつらしい。最近では、「白湯」とお湯割りを結びつけられないかと考えている。

地域の焼酎づくりを担う若手たちを集めて「SHOCHU MAKERs」というチームをつくりイベントを仕掛けたり、県内外のメディアで焼酎のあるライフスタイルの発信をすることもある。

文=鳥巣智行 イラストレーション=尾黒ケンジ

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