はじまりは97セントのプロトタイプ 200億ドル企業スクエアの創業秘話

スクエアの共同創業者ジム・マッケルビー(画像提供:ダッソー・システムズ)

2009年に創業し、10年で時価総額200億ドル超に成長したフィンテック企業スクエア(Square)。それまで費用や信用の問題でカード決済機能を持っていなかった多数の中小企業や個人事業主は、数千円程度で買えるカードリーダーをスマートフォンのイヤフォンジャックに挿すだけで、どこでもカード決済を受け付けられるようになった。

例えば芸術家が一品モノの作品を売ったり、音楽家やスポーツ選手が数時間のレッスン料金を受け取ったりすることができる。白い小さなデバイスが、スモールビジネスのチャンスを拡大した。

ツィッター創業者ジャック・ドーシーとともに同社を共同創業したジム・マッケルビーは、開発者であり、デザイナーである。ジムのデザインしたSquare ReaderはMOMA近代美術館にも展示されている。

才能のあるプログラマーを育成し業界トップの企業に斡旋する非営利団体LaunchCodeの創業者でもあるマッケルビーだが、他にもう一つの職業がある。ジムは30年前からガラス工芸デザイナーであり、今も現役である。

2月10〜12日、マッケルビーはアメリカ・ダラスで開かれたSOLID WORKS WORLD 2019に登壇し、スクエアのふたりの創業者がイノベーションを起こすことができた理由について語った。


(画像提供:ダッソー・システムズ)


「ジャック・ドーシーに初めて会った時、彼はまだ15歳だった。彼は私のいたガラス工房にサマーインターンに来ていたんだ。それから17年たって、僕が起業することを決めて何人かの仲間に声をかけたら、ジャックだけが一緒にやろうと言ってくれた。僕らはたった2人だけで、スクエアを起業したんだ」

ジム・マッケルビーは笑って続けた。「彼はツイッターを成功させてお金があったし、僕はガラス工芸の仕事で収入があったからね」

マッケルビーはガラス工芸品を作る芸術家で、ビジネスマンではなかった。しかし彼はその時、迷うことなく起業を決めた。その決意はどこから来たのか。

「私たちはそれまでデザインデータをCDROMに焼いて手渡ししていたが、ある日を境にインターネットで受け渡せることになった。仕事はものすごく楽になったが、あれほど大量に使っていたCDROMが、瞬く間に世の中から消えたんだ。その時私は悟った。今、世界に数々の“ディスラプション=破壊的創造”が起きていると。それならそれを”起こす側”に回りたいと思って、いてもたってもいられなくなったんだ。

彼とドーシーが狙いをつけたのは、まだうまくいっているけど間もなく死滅するだろうなという古い世界だった。

「古い世界から脱却することができるものを作ったものが、イノベーションを起こす。そうした何かを私たちは探し始めたんだ」

そんなある日、こんなことがあった。マッケルビーは洗面台のシンクにつけるアーティスティックなガラス製の蛇口を製作した。蛇口は評判となり、注文が増えたため、価格を2000ドルに上げた。そこに訪ねてきた女性が「これ買うわ」といってアメックスのカードを差し出したのだが、ジムの工房にはカード決済のシステムがなく、女性は帰ってしまったのだ。



ドーシーはその残念な話を聞いて、「それだ」と言った。「カード決済のインフラを一気に拡げよう」と。

それがスクエアのアイデア、つまり、”スマートフォンで誰でも顧客のクレジット決済を受け付けることができる仕組み”が世界を変えると気づいた瞬間だった。そして2人は議論を繰り返した。ドーシーはカードリーダーはないほうがいい、画像でいいのではないかと言ったが、マッケルビーはプロダクトを作ることにこだわった。それがSquare Reader誕生につながった。
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文=嶺 竜一

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