ビジネス

2019.02.25

ピッチイベントで起業家に向けられたシンプルな質問が、彼を思わず口ごもらせた

ダイバーシティVCの代表であるフランセスカ・ワーナー (c)Maija Astikainen

世界最大級のスタートアップイベント「Slush」。フィンランド・ヘルシンキで行われる2日間の祭典は、世界各国の注目を集める。中でも人気のあるコンテンツが、ピッチコンテスト「Slush 100」だ。世界60カ国から1000以上の応募があり、100チームがコンテストに参加した。

そのピッチコンテストで、審査員から投げかけられていた質問に私はSlushの先進性をみた。「あなたのチームはダイバーシティに配慮していますか」。メンバー紹介のスライドに男性のみが映っていたチームへの質問だったーー。

テック業界はいまだ男性社会だ、といわれている。そこにメスを入れようと立ち上がった人たちがいる。彼らは業界の現状を数値化し、ガイドブックとしてSlush会場で大量に配った。

欧州最大規模といわれるベンチャーキャピタル、アトミコとダイバーシティVCが共同でテック業界の多様性を数値化した。スタートアップ企業が今後の指針とすることができるよう、73ページに及ぶガイドブックを作り、Slush会場で大量に配布した。ガイドブックを作った背景とダイバーシティの大切さをそれぞれの担当者に詳しく聞いた。

テック業界の#MeToo ムーブメント

2017年、Uberで働いていたエンジニア、スーザン・ファウラーは上司からのセクハラをブログで訴えた。会社のずさんな対応も浮き彫りになり、CEOは解雇された。デイブ・マクルーアなどの有名投資家による、女性起業家へのセクハラも話題に上った。これらはアトミコをはじめとするVC業界やテック業界に大きな衝撃を与え、自分たちを振り返るきっかけとなった。

ダイバーシティVCの代表であるフランセスカ・ワーナーも自身の経験から業界の「男性社会」を目の当たりにしてきた。テックカンファレンスに参加した際、スーツに身を包んだ男性グループの輪に入ろうとしたところ、ウェイトレスと間違われて飲み物を持ってくるように言われたことがあった。「これはテック業界で日常的にみられる、ほんの出来事です」と彼女はいう。

テクノロジーの可能性を信じ、投資家として業界を支援してきた彼女としては、個人の性別や人種、バックグラウンドによって選択肢が狭まることを強く危惧している。そんな思いから、テック業界のダイバーシティを広げるダイバーシティVCを立ち上げた。今回、アトミコと手を組み、活動の幅をさらに広げている。

ガイドブックが作られた背景
 
アトミコ代表のニクラス・ゼンストロームとダイバーシティVC代表のワーナーによるSlush会場での対談風景(c)Maija Astikainen

アトミコとダイバーシティVCは性別関係なく、どんな人でも活躍できる業界にするために、まず業界のダイバーシティを数値化することから始めた。「数値化しなければ、(現状は)変えられない」というポリシーのもとで起こしたアクションだ。

例えば、資本提携や契約獲得に至ったスタートアップの創業チームメンバーの性別割合を調べると、2013年から2018年にかけて、男性のみのチームの割合が90%台をキープしている。男女混合は5%前後、女性のみのチームは2%前後にとどまっている。



データが集まると、問題が浮き彫りになった。しかし、数字を出すことだけでは本来の解決に導かれないと気づいたのだった。

彼らはアトミコの投資先である起業家に一斉にメールを送った。メールでは、アトミコが投資してから6ヶ月以内にダイバーシティに関する企業方針を定めるように伝えた。起業家からの返信は前向きだったが、ほとんどの人からどんな方針が良いのか質問が相次いだ。半分以上の企業がダイバーシティに関する方針を定めていないからだった。

アトミコの広報マネージャーであるエレノア・ワーノックによれば「私たちは、テック業界で働く人が誰でも、どこにいても利用できる実践的な解決策が必要だと考えました。だから、『ダイバーシティ&インクルージョン ガイドブック』を作ることに至りました。今日すぐに誰でも始められるように、無料で簡単にアクセスできるようにしました」

ガイドブックは、公式ページで誰でもダウンロードできるようになっている。ガイドブックでは、数値化された業界の現状、偏見への理解、ダイバーシティ&インクルージョンの方針戦略、実践的方法、9社からのケーススタディを丁寧に掲載している。

チームが多様であればあるほど、ビジネスのパフォーマンスが良くなる

ダイバーシティVC代表のフランセスカ・ワーナー© Maija Astikainen
ダイバーシティVC代表のフランセスカ・ワーナー(c)Maija Astikainen

「ダイバーシティを進めるのは倫理的に正しいから、だけではないんです」。ダイバーシティVC代表のワーナーはいう。「ハーバードビジネスレビューをはじめとする様々な研究結果によると、チームが多様であればあるほど、ビジネスのパフォーマンスが良くなるといわれています。また、多様なチームはイノベーティブでクリエイティブになります。さらに、企業は彼らがターゲットとしている顧客を正確に反映するような多様なチームを持つべきです。これらの3つの理由からダイバーシティが進められるべきだと考えています」

#MeToo がきっかけとなって表面化したテック業界の偏りは、数値化され、解決への行動にうつすためのガイドブックとなった。「あなたのチームはダイバーシティに配慮していますか」という質問が、Slushの本拠地であるヨーロッパだけでなく、今後世界各地で当たり前のように飛び交うことを願うばかりだ。それが実現される世界では、ビジネス面においてもテック業界のさらなる盛り上がりを見ることがきっとできるだろう。

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