サンフランシスコのミッション地区。多言語が飛び交い、日常品店やおしゃれなカフェが乱立する目抜き通りに「Everlane(エバーレーン)」の店舗がある。天井が高く、天窓から自然光を取り込む構造もあって、白が基調の店内は明るく、すっきりとしている。12月上旬の陽気な午後、定刻どおりに同社の共同創業者兼CEO、マイケル・プレイズマン(33)はひとりでふらっと現れた。
撮影や会話のちょっとした隙間時間もスマートフォンをこまめに確認しては、淡々とした表情ではっきりと早口に話し、曖昧な質問を受け付けない。ムダも隙もないプレイズマンを見ていると、彼が立ち上げたアパレルブランド「エバーレーン」が急成長を遂げたのもうなずける。
2010年創業の同社は、ウェブサイトを通じて消費者に直販する「D2C(Direct to Consumer)」型のビジネスモデルで、日本を含めて38カ国に展開。近年のeコマース企業らしく、リアル店舗も運営しており、冒頭のバレンシア店のほか、ニューヨークに2店ほど構えている(18年12月現在)。
企業調査会社プリブコによると、16年の段階で売上高は推定1億ドルに上り、18年4月の段階でコースラ・ベンチャーズやKPCBなどのベンチャー投資会社から110万ドルを調達している(米IT調査会社CBインサイツ調べ)。
プレイズマンが歩んできた道のりは、他の起業家のそれとはやや異なる。じつはエバーレーンを立ち上げる前、ベンチャー投資会社「エレベーション・パートナーズ」で3年間勤務していた経験をもつ。
名門カーネギーメロン大学でコンピュータエンジニアリングと経済学を専攻したプレイズマンは「投資を通じて世の中にインパクトを与えたい」という思いから有名エンジェル投資家のロジャー・マクナミーや音楽バンドU2のボノらが創業した同社の門を叩いた。
ところが働くうちに、投資とオペレーションはまったく別物だとわかり、「オペレーションを通じてインパクトを与えたい」と思うようになっていた自分に気づいたという。
「例えばフェイスブックに投資していれば、世界に影響を与えられますよね。でも、それができなかった。ただテーブルの上にお金を置いているだけのような気がしたのです。自分で何かを始めるしかない──。そう思うようになりました」
尊敬するウォルト・ディズニーやナイキ共同創業者のフィル・ナイト、イケア創業者のイングヴァル・カンプラードのように、アイデアを具現化するためにも「変化に投資するのではなく、自分自身がその変化の中心になる」ことに決めたのだ。