1993年生まれの森川夢佑斗は、仮想通貨ウォレットサービスを手がけるGincoのCEOとして、ブロックチェーンとビットコインに向き合い続けている。「儲かるか否か」といった即物的な目線ではなく、お金の本来的な意義や役割に思いを巡らせ、あたらしい信用のシステムが社会に与える影響について想像し、ウォレットサービスを軸にした事業によって社会システムを更新しようと尽力しているのだ。
その背景には、お金に囚われることへの危惧と、お金によって悩まされた過去の体験があった。どこまでも理知的でありながら、その発言からは一貫してあたたかな眼差しと傷あとを隠さない強さが感じられた。そんな彼の過去と未来に迫る。
──仮想通貨やビットコインについては広く知られてきています。森川さんは、なぜその領域に注目しているのでしょうか。
お金は今の人間社会において、なくてはならないものです。コミュニケーションする上でもお金が必要で、金の切れ目が縁の切れ目、という言葉もありますよね。
ただ僕は、社会構造や人の行動原理がお金によって規定されすぎていると思っていて、そういう状況を変えてゆくことをひとつのミッションとして掲げています。
──その手段として、ブロックチェーンとビットコインを用いるということでしょうか。
そうですね。前提として、C2Cなどのサービスによって価値の流動が起きると、人の生活は豊かになっていくと考えています。メルカリがわかりやすい例で、個人が個人に直接物を売るエコシステムが生まれて、多くの不要な物が自由に使えるお金に変換され、マーケットが大きく動きました。
Gincoは、簡単にいうとそのC2Cの概念を仮想通貨の分野で実現するもの。ブロックチェーンによって信頼が担保された仮想通貨などを安全に管理できて、個人間でやりとりできるプラットフォームです。
仮想通貨を自由に誰かに送れたり、さまざまな種類の仮想通貨をシームレスに管理出来たり、未来の社会の中で必要になっていく「銀行口座」のような存在です。
──「お金」に着目するきっかけはありましたか?
小学生のとき、あまりお金がなかったんですよね。それがひとつのきっかけです。当時、遊戯王カードとかのカードゲームが流行っていたんですけど、僕は自由に買うことができなくて。なんとかその差を埋めたいと思って、「遊戯王カードを複数の店で売り買いする」ということをはじめました。
店ごとに価格設定が違うので、数十円とか数百円ずつ利益が出て、こうやってお金は作れるんだなと。中高では、インターネットを介してヤフオクとか、楽オクとかで近いことをやっていましたね。
──そそこからお金というものにずっと目を向けているんですね。京都大学在学中に起業をされていますが、そこまでの経緯を教えてください。
京都大学を選んだ理由は二つあります。一つは、制度を変えるほうに回るために、官僚になろうと考えたこと。
当時、生活保護がニュースで取り上げられていて、不正受給をする人がいる一方で、本来受け取るべき人になぜ適切な社会保障が行き渡らないのだろう、と疑問に思いました。富を再分配する社会システムが機能していないと子どもながらに感じていて、それを是正したかったんです。
もう一つは、コンプレックスを覆すために、関西で一番偏差値の高い大学に入ろうと考えていました。
──コンプレックスとはどういったものだったのでしょうか。
よくある話ですが、小学校のとき家庭がうまくいっていなくて、「自分はひとりだ」と感じることが多かったんです。
「なぜ生きているのか?」とか「自分は価値ある人間なのか?」とか、自問自答する癖がつきました。大学時代、C2Cに興味を持ったきっかけも、自分の体験と無関係ではないです。
C2Cはビジネスの主体を個人にもってくるようなサービスで、自分は幼少期からお金を作ることをちょっとずつやってきましたが、そういう環境を多くの人にもたらすことができれば、スタート地点で遅れをとってしまったり、お小遣いなど所与のものが少なかったりしても、自分でなんとかするチャンスがもたらされる。そこに意義を感じています。
──自分の存在意義を問わなければならない幼少期はつらいものですが、それが森川さんの現在につながっているんですね。
そうですね。官僚の側から社会のシステムを変えるのには時間がかかりすぎます。UberとかAirbnbのように、民間の側からプロダクトを作ることで、多くの人にチャンスを渡して、社会にポジティブなインパクトをもたらしたいと考えるようになりました。
一時期メルカリに在籍していたのですが、国内のC2C領域ではこの会社に勝てない、と思ってしまって(笑)。そんなときにビットコインとブロックチェーンについて知りました。仲介する権力を無くしてピュアな個人間の経済活動を促進する技術は、自分の目指すビジョンに近いな、と。