12月初旬、リニューアルしたばかりのチバソムにゲストシェフとして招かれ、約1週間滞在してきました。
世界的なウェルネスの聖地
チバソムの創業者は元タイ副首相の故ロジャナスティ氏。もともと漁村だったこの地のビーチハウスを改装し、世界に知られるホテルにまで育て上げたということで、ものすごくロマンを感じます。ちなみにチバソムは、「安寧の隠れ家」という意味。文字通り穏やかでプライバシーのある環境を求め、著名人も含め多くのファンが繰り返し訪れています。
このホテルでは、チェックインするとまず契約書を交わします。その内容は主に2つで、パブリックスペースでの「電話とパソコンの使用禁止」と「写真撮影の禁止」。普段の忙しい生活からの解放と、ゲストのプライバシーのためです(部屋では使用可能です)。
そして、常駐する医者や理学療法士の健康チェックなどコンサルテーションを受け、滞在のプログラムやゴールを一緒に考えていきます。ちなみに僕は、ヨガ、キックボクシングなど普段やらないことにチャレンジし、午後は仕事の合間に、様々なマッサージを受けました。
あらゆるメニューがあるのですが、僕が受けた中でも特に感動したプログラムを一つあげると、チバソムに在中する鍼灸師の橋本先生に施術です。なんとびっくり、長年の肩こりが治りました。過去にもいろんな針治療を受けてきましたが、今回は「井穴刺絡」という初めてのものでした。
井穴刺絡は、指先ある「井穴」に針を刺すことで出血をうながして刺激を加える療法で、そもそもは内科の医師による発見だったのですが、内科では広まらずに鍼灸の世界に入ってきたとのこと。また、日本の鍼灸でもなかなかと広まらず、それがタイのリゾート地で実践されてることが衝撃でした。
人は食べたものでできている
さて、今回の滞在で、僕はこのホテルの料理フェアと料理教室を担当しました。一言でまとめると、この連載でも書き続けている「うま味」を使った料理やそれを伝える教室の反応が良く、ゲストたちの健康への意識の高さを感じると同時に、そういう一定層がいるということを知られてとても嬉しかったです。
なぜなら、基本五味は、世界的にまだちゃんと普及しておらず、日本人でもその内容をちゃんと把握している人はほとんどいないのが現状。今年8月に逝去されたジョエル・ロブション氏は、次のような言葉を残していますが、これは料理人に限らず、家族として、親として、子供と育んでいかなければいけないと思います。
「料理人は子供達に正しい味を知る機会を与えなければならない。いかに食べるかは、読み書きと同じように大切な事、今の子供達は旬の素材にどんな味や香りがあるのかを知らない。まずは子供達の感覚を目覚めさせる事が大切だ」
ここでいう味覚とは、ただ「美味しい」という喜びのためのものではなく、健康という豊かさへのアプローチとしての味覚。人は食べたものでできている、という原点に返ると、人生豊かに生きるために、一番大切なのは味覚教育なのではないかと思います。