それゆえ、こうした変化の中で、我々が、しばしば陥ってしまうのは、「人工知能にはかなわない」「人工知能に仕事を奪われてしまう」という強迫観念であり、人工知能を、人間に「対立する」ものとして捉える発想であろう。
しかし、こうした時代において、我々に真に問われているのは、実は、先ほど述べた「ロボット・パラダイム」と「サイボーグ・パラダイム」の、いずれに立脚して人工知能技術を見つめるかである。
言葉を換えるならば、人工知能(Artificial Intelligence:AI)というものを、「圧倒的な知能を持つコンピュータ」として捉えるのか、「人間の知能を圧倒的に拡張する技術」、すなわち、「知能拡張技術」(Intelligence Amplifier:IA)として捉えるのか、それが問われている。
いま、「人工知能革命によって生き残れる人、生き残れない人」といった議論が世の中に溢れているが、その議論の前に我々が定めるべきは、「人工知能技術」(AI)の本質は「知能拡張技術」(IA)に他ならないという認識であろう。
実際、AIは、ビジネスにおいては、極めて有能な秘書になり、学問研究においては、優秀な研究助手になり、知的創造に携わる人間にとっては、常に知的刺激を与えてくれる良きパートナーになっていくだろう。
されば、これからの人工知能革命の時代を前に、我々が定めるべきは、「人間の能力は、最先端の科学技術をもってしても、測り尽くせぬほどの奥深さがある」という人間観に他ならない。
田坂広志◎東京大学卒業。工学博士。米国バテル記念研究所研究員、日本総合研究所取締役を経て、現在、多摩大学大学院教授。世界賢人会議Club of Budapest日本代表。全国4600名の経営者やリーダーが集う田坂塾・塾長。著書は、本連載をまとめた『深く考える力』(PHP新書)など80冊余。tasaka@hiroshitasaka.jp