変化する「リスク」に対応できているか
例えば、気候変動により自然災害の規模や発生頻度は増加傾向にあり、損害保険の保険金は年々増加している。世界最大手の保険会社であるアクサのCEOは、「今後気温が4℃上昇したら損害保険ビジネスは崩壊する」と宣言している。ちなみに世界の気象科学者が予測する悲観的なシナリオでは今後世界の気温は4.5℃上がってしまう。そうなると日本も無関係ではいられない。
また最近、日本の大手運送会社が人手不足に陥り、運送荷物が減少できたと喜ぶニュースがあった。よくよく考えると変な話だが、これは人口減少や採用難というメガトレンドがもたらすリスクが顕在化した一例だ。
他にも例を挙げたらキリがない。今年話題となった(実は欧米では3年前から話題となっていたのだが)欧米の大企業によるプラスチック・ストロー廃止の動きも、当然メガトレンドが絡んでいる。今、日本のスーパーマーケットや飲食店が、日本近海で魚介類が調達できなくなり、地球の裏側から辛うじて輸入できていることは、一般消費者にはあまり知られていない。
だが、世界的な機関投資家やグローバル企業は、これらのリスクをよく認識しており、先に手を打ち始めている。アップル、マイクロソフト、ナイキ、マクドナルド、ユニリーバ、コカ・コーラ、ネスレなど日本でもよく知られたグローバル企業は、10年前からこれらの巨大なトレンドに具体的な策を講じてきている。策の中身は、彼らの英語のアニュアルレポートを読めば誰でも知ることができる。
ここまで名前を挙げたグローバル企業も金融機関も、ESGを「社会貢献」や「慈善活動」とはみなしていない。間違った理解を避けるため、「倫理的」や「エシカル」という言葉も用いなくなってきている。「企業イメージ戦略」や「ブランド戦略」でもない。
彼らにとってESGとは、事業を長期的に続けていくためにしなければいけないことをしているだけという感覚だ。
長期的視点で企業が持続できるか
ここで重要なポイントは、この「長期的」という言葉にある。長期とは何年先のことなのか。3年、5年、10年。いや違う。グローバル企業の視界は、20年から30年まで先の将来。それほど遠い先のリスクに今から対応しなければ、安心して経営できなくなったと感じている。
長期的に持続可能な経営を追求し始めたことから、このような経営スタイルを、「持続可能」の英語でサステナビリティと呼ばれることも多い。
ESG投資やサステナビリティ経営は、知れば知るほど奥が深い分野だ。私達が今まで思ってもみなかったところに大きな事業リスクが潜んでいたり、事業成長のチャンスがあったりする。それを早く認識し対策を講じる企業が、業界をリードできる存在となれる。今回の記事はESG投資やサステナビリティ経営の「イントロダクション」とし、今後いろいろなテーマを詳しくみていこうと思う。