ワインに使われるブドウの品種、1800年代に一度壊滅
この日はワインの原料であるブドウの品種についても学んだ。ブドウの品種は大きく分けるとヨーロッパ系品種とアメリカ系の品種があり、カベルネソーヴィニヨンやピノ・ノワール、シャルドネなどのワインに使われる品種が、ヨーロッパ系の「ヴィティスヴィニフェラ」。アメリカ系の「ヴィティスラブルスカ」はコンコードやデラウェアなど、生食用として用いられることが多い。
ヨーロッパ系のヴィティスヴィニフェラは1800年代、根っこに寄生するフィロキセラというアブラムシの害虫により、壊滅状態となってしまった。そこでフランスで仕事ができなくなった生産者がスペインに移り、スペインワインのレベルが上がったという。
フィロキセラ対策のため採用されたのが「接ぎ木」の技術だ。フィロキセラは根っこにのみ寄生するため、根の部分はフィロキセラへの耐性のあるアメリカ系のヴィティスラブルスカにし、ヴィティスヴィニフェラを接ぎ木することでワイン醸造が再開できるようになったのだ。
一方で、接ぎ木をすると樹齢が短くなったという。ヴィティスヴィニフェラは元々200年程度の樹齢を誇るが、接ぎ木によって60〜70年が寿命となった。「全然ニュアンスが追いついていないという人もいますね」と早坂さん。
繊細なピノ・ノワール、温暖化で栽培地が北上中
ヴィティスヴィニフェラの中でもブルゴーニュで主に使われているのがピノ・ノワール。房が小さく小粒で黒紫色。食べると酸っぱく、生食用には向いていない。
厄介なことに果皮が薄く、病気にかかりやすいのだという。遺伝子的にも弱く、突然変異も起きやすい。ピノグランやピノグリ、ピノグリージュなどはピノ・ノワールが変異したものだという。
早坂さんによると、地球温暖化の影響で、ブドウの栽培地はどんどん北上しているという。年内平均が1度上がると作れなくなることもあり、日本では北海道がピノ・ノワールの栽培地として最適だそうだ。近年ワインを造り始めたイギリスも、土壌がシャンパーニュに近いため栽培地に向いているという。
ピノ・ノワールのワインの特徴としてはラズベリー、いちご、チェリーなどの赤い果実のようなチャーミングな香りがあり、透き通った、明るく、深みのある色合い。タンニン、アントシアニンの含有量が他の赤ワイン品種の半分程度のため、渋みが少なくエレガントな味わいになるそうだ。
「ブルゴーニュに近いピノ・ノワールを作れるのは、実は南アフリカ。結構美味しく、そして安いんです」。1600年代からフランスに甘口ワインを献上していた歴史があるという。
究極の自然派ワイン造り、「ビオディナミ」
この日は近年盛り上がる自然派ワインについても学んだ。
世界的に減農薬栽培が進むワイン業界。段階的に様々な栽培方法がある。2004年にフランスに導入された減農薬栽培が「リュットレゾネ」。必要な時のみ化学肥料や農薬を使う対処農法とも呼ばれる。「この方法を採っていない造り手の方が少ないですね」と早坂さん。
工業的に生産された化学肥料や除草剤、害虫駆除剤などを使わないのが「ビオロジック」。人間の介入を最小限にとどめ、家畜の糞や血液、骨、海藻を混ぜたものなどを肥料に使う。有機栽培のマークがもらえる。
さらに徹底しているのが「ビオディナミ」という栽培方法。オーストラリアの学者のルドルフ・シュタイナー博士が始め、太陰暦に合わせて農作業を行うのが特徴だ。農作業全体を一つの生命体として考えるシステムで、特別に配合された堆肥、薬草の浸出液を使う。
満月の夜に収穫するなど、ストイックで儀式のような感じも受けるが、実際、ブラインドテイスティングではやはりビオディナミで造ったワインの評価が高くなるのだという。
ブルゴーニュの作り手もこのビオディナミに移行するところが多く、ロマネ・コンティはこの30年以上ビオディナミを貫いている。
「ちなみに最近ロマネ・コンティの値段を調べたら、数年前は1本80万円程度だったのに徐々に上がり、約200万円になっていましたね」と早坂さん。すごい世界である。
醸造家の苦悩やブドウ栽培の難しさ、自然派への回帰…。フィサンのワインの美味しさとともに、ワイン造りが大変繊細な仕事であることを学んだ回だった。
次回はブルゴーニュの銘醸地で最も多くのグラン・クリュを擁するジュヴレ・シャンベルタン。贅沢な1回となりそうだ。