実は南欧諸国に目をやれば、債務危機を契機とした構造改革の末、体質改善が進み、堅調な成長軌道に戻ったスペインのような国もある。スペインは2012年に施行された労働市場改革などに基づく取り組み(具体的には解雇規制の緩和や賃金交渉の柔軟化など)によって非効率の解消が進み、2013~17年の5年間における実質GDP成長率の平均は1.9%とユーロ圏全体(1.5%)やドイツ(1.8%)よりも高い。
一方、フランス(1.2%)はユーロ圏全体にもポルトガル(1.3%)にも及ばない。しかし、マクロン政権が民衆から抗議を受けているのは、まさにそうしたスペインが着手したような労働市場の流動性を高める政策を推し進めようとしたことも原因である。こうした痛みを伴う政策に踏み切らなければ、ドイツとの格差は今後も縮まりようがない。
マクロン政権失脚で浮上する懸念
今後の問題はそうした経済の結果、フランスそして域内政治がどのように修正されていくかだろう。現状を見る限り、マクロン政権が発足当初の勢いを取り戻すことは極めて困難に見える。ここで2つの懸念が浮上する。1つは2022年に行われるフランス大統領選挙の行方。もう1つはEU改革の行方である。どちらも欧州の未来を考える上では重要な論点だ。
まず、あと3年余りで次のフランス大統領選挙がやってくる。2017年4~5月の選挙では極右候補であるルペン氏を退け、圧勝を収めた。しかし、この時、フランス国民は前年の英国EU離脱(ブレグジット)やトランプ大統領誕生を受けた混乱を踏まえ、「3度目のまさか」を回避する選択をしたという勝因分析がもっぱらであった。
世界中で反グローバル・反エリートの機運が高まっている状況下、親EUでエリートのマクロン氏が拠って立つ支持基盤はそもそも脆弱だと見られてきた。1年半余りで支持率が3分の1になったのだから、その分析は今思えばやはり適切だったと言える。
これから懸念すべき問題は、極右を避けて親EU候補を選んだ結果、現状のような悲惨な事態に直面したフランス国民が今後どのように振舞うか、である。
既に述べた通り、フランス経済が根本的に体質改善を図るにはマクロン政権が掲げるような「小さな政府」志向の下で、企業活動に関する規制緩和や行財政改革を進めていくことが必要である。しかし、世論がついてこなければどうしようもない。
今思えば、スペインがこれを成功させたのは金融支援を仰ぐほど追い詰められていたからであり、同様の切迫感(砕けた言い方をすれば「やる気」)をフランスに期待するのは難しいということなのかもしれない。
かかる状況を踏まえれば、次回の選挙では今度こそ極右政党・国民連合(元国民戦線)のルペン党首(もしくは、これに類似する候補)が成果を上げる可能性は否めない。もちろん、ルペン党首がこの機を見逃すはずがなく、「選挙以外にこの政治危機を乗り越えることはできない」と言い放ち、既に解散・総選挙を声高に求め始めている。また、「マクロン政権の失敗」は他の加盟国のポピュリスト勢力にも追い風となりかねないだろう。