衝撃のゴーン逮捕は、アメリカでも大きく報じられた。しかし、検察から漏れてくる情報が少なく、日本のメディアでも追加報道が難しいところに、東京地検の司法記者クラブは、外国人報道機関は入れないため、事件の大きさだけが騒がれる一方で、ニュースの肉付けに乏しく、アメリカの各メディアは報道の仕方に困っているという状態が続いていた。
アメリカでは、2010年のトヨタのリコール問題も、2014年のタカタの欠陥エアバッグ問題も、連日、冷静さを欠いたような過熱報道が繰り広げられた。それに比べ、ゴーン前会長逮捕のニュースは、まるで日本での報道を翻訳しただけの、ただ脚本を読んでいるかのようなニュースばかり散見され、北米ではトヨタの14.2%に次ぐ、9.9%のマーケットシェア(三菱含む)を誇る日本車メーカの一大不祥事であるのに、その後の詳報はあまり伝えられていない。
役員報酬の開示だけで何10ページも
そんななか、むしろゴーン逮捕劇を契機に、日本の役員報酬と会社法の開示義務の緩さを厳しく指摘するような論調が目立つようになった。ウォール・ストリート・ジャーナル(WSJ)は「カルロス・ゴーンが日本の報酬開示義務のバーの低さを示した」と題する記事を報じた。
記事では、逮捕容疑とともに、所得隠しや社有資産の私的支配のような背任行為があったとしても、そもそも日本の役員の報酬開示は甘すぎで、役員に緊張感を与えていないとの指摘がされている。たとえば、日本では1億円以上の報酬をもらわないと個別開示が義務付けられていないが、なぜ1億円以上なのかという疑問が呈されている。
金額に関係なく、会社の重要事項を決定する役員が、どれだけ「報酬に応じた働きをしているのか」というチェックができなければ、株主としては不満ではないのかという言説には説得力がある。役員は役員であって、従業員ではない。役員は株主の承認を得て選出されるのに、なぜその役員に払っている報酬がすべて明らかにされないのか、という主張だ。
さらに、開示そのものも、実に形式的で中身が薄いと手厳しい。WSJは、アメリカでは(数100ページになる開示資料の)最低でも10分の1以上を割いて、全役員の報酬を詳細にレポートしているのに対し、日産の場合はたった1ページを開示報告書に記載しただけだ、と皮肉を込めて報じている。
実際、アメリカの上場企業の役員は、通常の役員報酬だけでなく、ボーナスやストックオプション、パークスと呼ばれるさまざまな手当(自動車手当、転勤手当、家族の年間の観光旅行枠、勤続記念手当、就任手当など、会社によって多種多彩)があるため、何10ページにもわたる詳細なレポートが必要になる。その個人データを統合して、全米上場企業の全役員報酬レポートという分厚い本を3000ドルで売る出版社さえある。