その2件とは、パキスタンを縦断する同国とのインフラ整備事業、「中国パキスタン経済回廊(CPEC)」と、マレーシアのジョホール州ジョホールバルで進められている都市開発事業、「フォレスト・シティー」だ。
投資家たちは、これらのプロジェクトを取り巻く状況を注視しておかなければならない。アジア地域の市場を、さらに大きく揺るがすことになる可能性があるためだ。
野心的な計画
中国にとってCPECは、自国の西部地域と中東・アフリカまでのルートを確保し、石油や天然資源の入手に役立つものとなる。また、インドを取り囲もうとする中国の野心的な戦略の一環と見れば、パキスタンを中国の同盟国にしている根拠といえる。一方、パキスタンにとっては、インフラ整備の推進とそれに伴う経済成長の促進につながるものだ。
「フォレスト・シティー」もまた、野心的なプロジェクトだ。中国の富裕層の多くが、深刻化する国内の環境問題から逃れるために移住すると考えられている。中国政府にとっては、インド洋への進出におけるもう一つの“前哨基地”の役割を果たすことになる。
この建設プロジェクトは完了まで、マレーシア国内に雇用を創出し、労働者に所得をもたらす。さらに、プロジェクトが完了して中国の裕福層が移住し、支出するようになれば、マレーシアはさらに多くの雇用と収入の機会を見込むことができる。そこには経済学でいう乗数効果と加速度効果がある。
いくつかの誤算
ただし、これらのプロジェクトには、いくつかの問題がある。中国とパートナー国の双方に、いくつかの誤算があったことだ。それらの見込み違いによって、いずれの計画も無期限での中止に追い込まれる可能性がある。
フォレスト・シティーの場合は両国ともに、マレーシアの新政権の発足を見越していなかった。マハティール・モハマド新首相は、外国人がフォレスト・シティーの不動産物件を購入することを認めない方針を明らかにしている。
CPECについては、2つの誤算があった。その1つは、中国とパキスタンの双方が抱える汚職の問題だ。両国は昨年、透明性の確保に向けた委員会の設置を発表。だが、腐敗度の高さで知られる両国で、そうした対策が効果を上げた例は(特に政府が主導する建設プロジェクトでは)ほとんどない。
汚職はプロジェクトにかかる費用を日に日に増大させている。これは、パキスタンがIMFに金融支援を求めことにもつながった。米国が主導するIMFは、出資にあたってはプロジェクトの透明性を重視する。
もう1つの誤算は、地政学的な問題だ。CPECはパキスタンが実効支配するカシミール地方を経由するが、インドはこの地域の領有権を主張している。
中国はこれまでに、これら2件の巨大プロジェクトを継続させるための幾つかの対策を講じている。例えばCPECについては、ロシアの参加を呼び掛けていることが報じられている。また、中国がインドに対し、プロジェクト名の変更を提案したとの報道もある。
アジアの株式市場に投資する人たちは、こうした状況を注意深く見守っていく必要がある。すでに不安定な同地域の市場で、ボラティリティーを一層高めることになる可能性もある。