イルミナにとって、今回の買収は過去最大の規模となる。フォーブスの独占インタビューに応じた同社のフランシス・デソーザ最高経営責任者(CEO)によれば、同社はPacBioを1株当たり8ドルで買収することになる。10月31日の終値に、約71%の買収プレミアムを上乗せした価格だ。
1998年に創業、カリフォルニア州サンディエゴに拠点を置くイルミナの2017年の売上高は、約27億5000万ドル。利益は約7億2600万ドルに上り、時価総額はおよそ460億ドルとなっている。
2016年にCEOに就任したデソーザはPacBioの買収について、自社の「市場機会を拡大することになる」と語る。両社が保有する技術は大きく異なるものの、それぞれの文化は相補的なものだという。合併後はより多くの発見や、成長の加速が実現できると見込んでいる。
「手ごろな」解析が目標
ヒトゲノムの解析にかかる費用は、10年前にはおよそ1000万ドルだった。それを1000ドル未満にまで引き下げてきたイルミナは、がんや希少疾患に関する研究と、それらの結果を医療分野に応用させることに大きく貢献してきた。デソーザは、一人の遺伝情報の解析にかかる費用を今後、100ドルにまで引き下げることが可能だと考えている。
ただし、同社が現時点で使用している技術には限界がある。イルミナのシーケンサーは断片化した多数のDNAを読み取り、配列を再構成するもので、「ショートリード」と呼ばれる技術を用いている。だが、この技術には大きな構造変化や繰り返し配列の多い領域の解析が困難だという弱点がある。
これらの点に強みを持つのが、PacBioだ。同社のシーケンサーは、1分子のレベルでDNAを読み取ることができ、高精度でロングリードの解析を行うことができる。一方、この機械を使った解析の費用は高額で、およそ1万2000ドルがかかる。技術を向上させれば、より安価にすることもできるだろう。
イルミナは、ロングリード市場は現在の6億ドル規模から、2021年には25億ドル程度まで拡大すると予想する。デソーザは、「世界のどこでもより多くの人が利用できる技術にしたい」と述べている。
当初は「脅威」
PacBioは当初、イルミナを脅かす存在になるとみられていた。2003年に最高技術責任者(CTO)であるスティーブン・ターナーが創業。シーケンシング市場を破壊すると豪語していた同社は、2009年にベンチャーキャピタルから3億6000万ドル、新規株式公開(IPO)を実現した際には2億ドルを調達した。
だが、同社のシーケンサーは解析に時間がかかり、費用が高くつく上に扱いにくく、イルミナが成長を遂げる一方で伸び悩みが続いてきた。株価も上場後、大幅に下落している。イルミナは高額の買収プレミアムを提示したが、それでも1株当たりでは公募価格の2分の1だ。
なお、デソーザは「PacBioのチームには素晴らしい人材がそろっている」と述べており、買収後も幹部がイルミナに残ることを希望している。