経済・社会

2018.10.04 18:00

マイケル・ムーア最新作に見る、ドキュメンタリー映画の限界

映画「華氏119」のロザンゼルス・プレミアに登場した、マイケル・ムーア監督(Photo by Michael Tran/FilmMagic)

ドキュメンタリーとエンタテインメントを融合させた映画作りを続けるマイケル・ムーアが、トランプ大統領とアメリカ社会を題材にした最新作「華氏119(原題:Fahrenheit 11/9)」を発表した。その内容は、他の人々が深夜のトーク番組やユーチューブで既に主張している事柄と重複するとはいえ、作中にはいくつかの興味深い指摘がある。それだけに、公開タイミングの遅さが残念だ。

「華氏119」はこれまでのムーア作品と同様、一方的な見方を紹介し、観客の思考を誘導する構成になっている。つまり、保守的な親を論破したい大学生が飛びつくような、わかりやすい現状分析を提示する。筆者自身も、学生時代に「キャピタリズム〜マネーは踊る〜」を観て、資本主義は世界の諸悪の根源に違いないと納得させられたものだ。

しかし、今日の学生にはユーチューブがある。意見を事実として発信する人々も大勢いる。断片的な事実を積み重ねてショッキングなストーリーを作り上げるというムーアの手法はいまや、映像編集ソフトやインターネットの発達により、一般にも広く普及している。

ムーアが「華氏119」で衝撃の事実として紹介している、トランプにまつわる事柄の多くは、何カ月も前からニュースやSNSで言われていたことだ。たとえば映画の冒頭、トランプ大統領が娘のイヴァンカを女性として見ていることを示す映像のモンタージュが出てくるが、トランプのイヴァンカに関する不適切な言動をまとめた映像は、既にユーチューブに存在する。

ユーチューブにはそれどころか、スティーブ・バノンがムーアの話術を褒めたたえている(かのように編集された)映像まである。


スティーブ・バノン

トランプのスピーチの音声をアドルフ・ヒトラーの映像に重ねた痛快なワンシーンを除き、「華氏119」の面白さは、実はトランプとは直接関係のない場面にある。特にムーアの故郷であり、監督デビュー作「ロジャー&ミー」の舞台になったミシガン州フリントで撮影された場面が印象的だ。

フリントでは近年、財政上の理由で水源を変えたことにより水道水の鉛汚染が発生し、住民に深刻な健康被害が出ている。腐敗した地元の政治家らが事態を無視する中、2016年5月にバラク・オバマ大統領(当時)が同市を訪れ、黒人が大半を占めるフリント市民は熱狂的に迎えた。
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編集=上田裕資

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