近年イスラエルスタートアップのアフリカ進出が増加している。イスラエルと言えば言わずと知れたハイテク産業の集積国であり、人口800万人の国に約6000社以上のハイテクスタートアップが集うイノベーション大国だ。近年はサイバーセキュリティや自動運転技術に注目が集まり、2017年は世界の投資家や事業会社からの投資額が約50億ドルを超えている。
イスラエルのスタートアップといえば、国内で技術開発を行い、欧米や中国から訪れる巨大企業とパートナーシップを結び、その企業が強みを持つ大きな市場へ共に参入していくという流れが、彼らが世界で勝つための勝ちパターンだった。そうしてサイバーセキュリティ、通信、AIといった独自技術を各産業の中に融合し世界の中で彼らの存在感を示してきたのだ。
しかし近年、テクノロジーの研究開発拠点が分散し、中国、ロシア、香港、スイス、東欧諸国など、世界各国から続々と新たなイノベーションが生まれている。それに危機を感じたイスラエル政府は、自ら新たな市場開拓を始め、地理的にも近く、歴史的にも繋がりが強いアフリカ市場に目をつけた。そうしてイスラエルは未開の地アフリカ大陸に新たな活路を見出すようになったのだ。
ディスラプトではなくゼロから創る魅力
イスラエルのイノベーションコミュニティを形成するStart-Up Nation Centralのシーラ・ゴールドブルーム氏は、「生活インフラが発展途上のアフリカではイスラエルのコアなテクノロジーを最大限活用できる」と語る。
灌漑農業や海水の淡水化を代表するように、イスラエルはもともと農業技術から発展した国だ。また、常に周辺諸国と紛争状態にあったため、砂漠の国でも自分たちが生きるための食料や資源を補うためにそれらの技術を発展させてきた。
アフリカの農村地域では同じように未電化や水道の不整備といった生きるために必要なインフラが整っていないことが深刻な課題となっており、イスラエルが自国のために研究開発を積み重ねてきた技術が今まさにアフリカ大陸でも活かせるのだ。
物流、医療、金融、農業、エネルギーなど、アフリカはまだ社会の仕組みも産業も未発達である。イスラエルスタートアップはそこに事業機会を見つけ、彼らのコアテクノロジーがインフラレベルから入り込みゼロから新しい社会の仕組みを形成できる点が、今までの完成された先進国へ参入する事と大きく異なる。
欧米や中国等の巨大市場には、すでにその産業を支配する既存企業が存在し、そこに蠢く世界の競合企業や既得権益、法制度との戦いが待っている。あえて戦わないことを選択することで、既存ビジネスのディスラプトではなくゼロから創る、それが世界と違うアフリカ市場に今参入する魅力でありチャレンジなのだ。