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業務横断型のチーム編成

たしかに魅力的な職場は、人材獲得の大きな武器になるだろう。だがそれだけでは同社の快進撃を説明できない。

本当の強みはどこにあるのだろうか。メラニーは言う。

「すべては『ゴール志向』を前提にデザインされています。何時に出勤するとか、どこで仕事するとか、そういうお役所的な規則は不要。顧客のためにどれだけの価値を生み出せるかを重視しています」

この「ゴール志向」は、Canvaのビジネスを語るうえで欠かせないキーワードだ。だがそれを説明する前に、「チーム」について見ておきたい。

実は同社には、「部署」という概念がない。存在するのは、職種の異なるメンバーからなる「チーム」だ。

プロダクトの機能ごとにチームがあって、一つのチームは基本的にデザイナー、エンジニア、プロダクト・マネジャーからなります。業務横断型のチームということですね。これがうまく機能するためには、チーム間のコミュニケーションをしっかりとらないといけない。だからコミュニケーションはいつも気にかけています」とキャメロンは言う。言い換えるなら、社内にいくつもの小さな自律的組織(=スタートアップ)が存在し、それを束ねるのが「親会社」としてのCanvaというわけだ。

ちなみに、同社には営業部隊もない。これは同じくシドニーに拠点を置く大手ソフトウェア企業のアトラシアンと共通する考え方だ。すなわち、オンラインサービスの場合、本当によいものを作れば、営業しなくても、口コミで評判が広がっていく。営業コストをかけるよりも、サービスの向上・改善にリソースを割くべき、というわけだ。

話を「ゴール設定」に戻そう。Canvaではシーズン(四半期)ごとに40以上あるチームがそれぞれ独自にゴールを設定し、その達成に向けて動く。

その盛り上げ方もユニークだ。シーズン開始日には、起業コンテストさながら、各チームが全社員の前で自分たちのゴールを発表する。

「この発表のために、マニラのスタッフがシドニーに来たり、シドニーのスタッフがマニラに行ったりします。みんなでゴールを共有し、社内の他のプロジェクトを知って、会社の方向性を理解する素晴らしい機会になっている」とメラニー。

一見、奇抜なやり方に見えるが、「小さなチーム」を作って、各チームがそれぞれ「ゴール」を定め、3カ月という短いサイクルで「アジャイル」に動く、というのは、シリコンバレーで成功しているスタートアップにも共通する働き方だ。

成功の鍵は「3つの黄金律」

「デザインの世界を民主化する」。それが19歳で最初の会社を立ち上げたときからのメラニーの変わらないビジョンだ。だが目の前には、アドビシステムズやマイクロソフトなど強力なライバルが立ちはだかる。どうやって戦いを挑むつもりなのか。

メラニーは「一番重要なのは、ユーザーに価値をもたらすこと」と繰り返したうえで、「3つの黄金律」を教えてくれた。

「顧客の声をしっかり聞くこと。複雑なものをシンプルにすること。誰でも使えるようにすること。その3つをこれからも変わらず追求していきたい」

華やかなオフィスや楽しげなイベントの数々に騙されそうになるが、Canvaの指揮官3人は、ビジネスの本質を捉え、常識にとらわれずに新たな価値を生み出すための「仕組み」を見事にデザインした。彼らはユニコーンになるべくして、なったのだ。そう感じずにはいられなかった。


Canva(キャンバ)◎2012年創業のデザイン制作サイト。世界190カ国でサービスを展開。現在オーストラリア唯一のユニコーン企業。シドニーとマニラに拠点があり、従業員は300人超18年5月現在)。15年8月に、プロ向けサービス「Canva for Work」をローンチ。

文 = 増谷 康 写真 = ジェレミー・パーク

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