根底にあるのは、前述したように、あくまでも「組合員の暮らしを支えるのがミッション」という考え方です。だから、ある地域の組合員の暮らしが侵害される災害時も「できることを組合員たちと一緒にやる」のだと本田会長はシンプルに答えてくれました。
その裏側には、“組合員”という個人を何より尊重する姿勢から発し、個別の問題解決のために必要とあらば、事業内容を変更したり、新しい事業を興すこともいとわない発想があります。共済事業や福祉介護サービスはそうして生まれ、ノウハウのほとんどなかった電気小売も、「それが組合員の益になる」という理由で参入しています。
協同組合は一般企業とは成り立ちが違うのは事実です。しかし、「組合員の暮らしの課題を解決する」という一貫した目的のため、環境が変われば事業システムや内容は変え、目的を達成するためには、そのつど最適な仕組みを作り上げる。そこに、ビジネスモデルとして日本のコープに注目が集まる理由があります。
人と人がつながるコミュニティが基盤
協同組合とは一人ひとりが資金を出し合い、協同して運営・利用する組織であり、地域のコープで働く職員の多くは、職員である同時に組合員でもあります。
だから現場では、サービスの提供側と受け手という立場を超えて、組合員同士が協力して暮らしの課題をしようとする能動的な関係が生まれることもしばしばあります。また、お互いに積極的に参加していける組織運営をしようという努力も行われています。
たとえば、「どんな店にしたいか」「何のために働くのか」など、ワールドカフェ方式*でディスカッションをし、職員やパート従業員自らが、彼らの想いを仕事に反映させられるような工夫をしているそうです(*注:米国で90年代に始まった気づきを得ることを目的とした会議の方法)。こうした人と人がつながるコミュニティの存在が、災害のときに、いち早く現地に必要なものを届ける原動力にもなっているのでしょう。
災害時の組合員からの募金は、億単位に上ります。たとえば2年前の熊本地震のときに半年間で集めた金額は約11億円。興味深いことに、店舗での募金よりも宅配の組合員からの募金の方が多く、額が1ケタは違うそうです。
本田会長にその理由を問うと、宅配注文というコミュニケーションが生協のメッセージを組合員に届けるのに有効であり、そのやりとりを通じて「もっと組合員の方の力を集めていくことができるはず」だと、コープの課題と可能性を語ってくれました。
ミッションを達成するため、環境にあわせて柔軟にビジネスを展開し、そこで働く人の想いをつなげて組織を作っていく──。現状に満足せずに常に先を考え行動していくコープは、災害時にも揺るがないほど、人と人の思いやりが組織にパワーを与えることを教えてくれます。そして小売の面では、Eコマース、実店舗でもない、こうした“コミュニティが作りだすマーケットの力”に今後注目していきたいです。
連載:「グローバル思考」の伸ばし方
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