そんないま、生まれたときから世界とつながり、お金でもモノでもない「豊かさ」を求める若い世代がいる。彼らは、少し上の大人たちとは違ったやり方で未来のあたりまえをつくろうとしている。
Forbes JAPANでは、次世代を担う30歳未満のイノベーター30人を選出する特集「30 UNDER 30 JAPAN」をスタート。
本特集では、「Business Entrepreneurs(起業家)」「Social Entrepreneurs(社会起業家)」「The Arts(アート)」「Entertainment & Sports(エンターテイメント&スポーツ)」「Healthcare & Science(ヘルスケア&サイエンス)」の5つのカテゴリーを対象に、計30人のUNDER30を選出。
「The Arts」部門のひとりに、アーティストのノガミカツキが選ばれた。ノガミはこれまで、文化庁メディア芸術祭新人賞、アルスエレクトロニカサウンドアート部門選出、アジアデジタルアート大賞優秀賞など、国内外から高い評価を集めている。
新潟で生まれ、東京での生活を経て現在はカナダに拠点を移し、創作活動を行うノガミに、創作の原点や今後の目標を聞いた。
インターネットは鬱屈とした感情のはけ口だった
──グーグルストリートビューを用いたミュージックビデオや六本木アートナイトで披露した「山田太郎プロジェクト」(編注:道行く人の顔を映したiPad 付きのお面をかぶり、ネットの匿名性を現実世界で表現したもの)など、ノガミさんの作品にはインターネット的な思想が強く反映されているように見えます。初めてインターネットに触れたきっかけはなんでしたか?
小学4年生のときかな。当たりくじ付きの年賀状ってあるじゃないですか。あれでパソコンが当たったのがきっかけで、当時からインターネットに触れるようになりました。
小さいころは内気で暗かったせいか、小学校でもいじめられることもあった。自分のことを誰も知らない世界に行きたくて、主にチャットをしたりしていました。
──中高生のころはどんな過ごし方を?
中学生の頃は、いつも自分の内側にモヤモヤしたものを溜めていたので、ネット上にそれをひたすら吐き出していました。チャットで悪口を言ったり、他人のブログを荒らしたり。あのころはまだネットの過渡期で、教師や大人もインターネットの扱いに困っていました。
もうそんなことはしていませんが、いまの創作活動でその時の出来事を見つめ直す事があります。トレンドとかでは無く、自分の中にある、忘れ去ろうとしていた自分の嫌な所や原体験から見つめていくしかないんだなって思います。
音楽が好きになって、銀杏BOYZや椎名林檎を聴いていました。高校時代にはバンドを始めます。オリジナル曲なんかもつくっていましたが、基本的には行き場のない感情やリビドーのはけ口。ライブでスピーカーを壊したりして、鬱憤を晴らしていました。
そうはいっても在籍していた高校は進学校だったから、そこそこ勉強もしていたんです。3年生の秋に美大に進みたいと思い立ち、受験をしたんですが、準備不足で不合格。浪人を経て、武蔵野美術大学に入りました。
──高校3年秋のタイミングで、美術の道を志したのはなぜでしょう?
直接のきっかけは、美大に行った先輩がいた事と、ライブをしていた時のように自己表現をしたい願望があったから。でもいま思えば、小さいころから鏡を見つめて「これは自分なのか?自分の顔なのに自分じゃないみたい」なんてことを考えたりしていました。だから、無意識にも作品を作る動機はあったんだと思います。
僕は、ウソをついたり楽をしたりして生きていきたいわけじゃない。自分に正直に生きて、「より自分になること」を目標にしたいんです。自分ってどういうものか、自分のことをもっと考えるために作品をつくりたいです。