「自分になる」ために創作を続ける
2015年 六本木アートナイトで披露した「山田太郎プロジェクト」
──大学在学中に、ベルリンに留学しましたよね。
ずっと海外に行ってみたかったのと、今の世界から逃れたい、自分のことを知っている人がいない世界に行きたいという気持ちが大きかったです。僕は新潟の出身なんですが、中学生のときに新潟中越地震を経験して、大学へ入る直前には東日本大震災があった。いまカナダに拠点を移した理由も、日本に対する不安感が理由の1つにあります。
新しいところへ行けば、新しい自分が見えるんじゃないかと考えて行ったベルリンでも、色々な人に会いました。すごい方も、尊敬できる人もいた。でも、「この人みたいになりたい」と憧れたりすることはありませんでした。ここでも、結局は自分を見つめるしかなかった。自分のことを突き詰めていかなければ、という気持ちがいっそう強くなりました。
ドイツではアンダーグラウンドからメジャーな美術館まで、幅広いアートシーンをたくさん見て、物凄い長文を読むだけのコンセプチュアルな作品に疲れてしまいました。
その時の反動で、言語や日本人としての文脈をなくしてもっと共通の文脈で、直感的に訴える作品をつくりたくなった。そこから作品が変化していきましたね。結局、今はまた自分個人の文脈に戻っていますが。
──留学経験を通して、自身の作風が固まっていったのですね。
それもありますが、自分がどこにいるかということよりも、日ごろインターネットの世界に触れていて感じること、考えたことが作品のもとになっていきます。アバターとか、出会い系のアカウントって一体なんだろうとか、自分の顔をネットに晒すとあっという間に勝手に使われたりしてすごいなとか。
とはいえ、新しいテクノロジーを積極的に取り入れたいとはまったく思いません。作品の主題は、あくまでも自分の生活から考えていきたい。そうじゃないと人生と地続きの作品にならないんじゃないかと思うので。
いろんな作品をつくっても、結局いつも「自分ってなんだろう」という問いに戻っていく気がする。これからも、そのあたりを巡ってつくり続けていくんでしょうね。
Forbes JAPANはアートからビジネス、 スポーツにサイエンスまで、次代を担う30歳未満の若者たちを表彰する「30 UNDER 30 JAPAN」を、8月22日からスタートしている。
受賞者たちのインタビューを特設サイトにて公開中。彼ら、彼女たちが歩んできた過去、現在、そして未来を語ってもらっている。
ノガミカツキ◎1992年生まれ、新潟県出身。ベルリン芸術大学でオラファーエリアソンに師事。武蔵野美術大学卒業。学生CGコンテスト20thグランプリ。文化庁メディア芸術祭19th新人賞、アジアデジタルアート大賞2015優秀賞。FILEやWRO、Scopitone等海外メディアアート祭に出演。VICEにアーティスト特集、WIREDやDesignBoom、映像作家100人2015など多数メディア掲載。group_inouやゆるめるモ!、ラブリーサマーちゃんのMV等を制作。