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インクルーシブであること、そうあり続けることはなんと難しいことだろう。

英語にレント・シーキングという言葉がある。民間企業などが政府などに働きかけ、自らに都合よく規制や緩和を設定して超過利潤を得ることだ。人間は組織をつくることで個人では不可能なことを成し遂げてきた。そして組織は既得権益をもち、他者を排除しようとする。個人は組織に属することで守られ、組織の存続自体が目的化していく。

組織に変革が必要な時、最も変革に反対するのは当該組織に属する「普通の人々」である。アメリカン・コミックと違い、現実の社会ではステレオタイプの「悪者」はいない。居心地の良い既得権構造のなかで「普通の人々」が抵抗勢力となり、組織は陳腐化し、ヒトも組織と共に滅びていく。

筆者は長年投資業を行う中で名門企業やベンチャーの雄と言われた企業があっという間に企業価値を毀損し、一方で優秀なリーダーによって変革を果たす事例を見てきた。ここでは昭和の経営者土光敏夫を例に、あるべきリーダーの共通項について記してみたい。

社会を豊かにする人になれ

「ビジョンを共創する」。土光は石川島重工業(現IHI)、東芝の再建を果たした経営者である。当時、多くの企業が労使交渉の結果、従業員削減によって合理化を図るなか、土光は時間無制限で従業員と将来あるべき企業のビジョンについて議論を重ねた。

労使を対立関係にせず、あるべき企業の姿を共に創るなかで、権限の委譲や経営の効率化がなされ、ストライキや従業員削減を行わずに経営再建を果たした。

「革新性」。土光は、経営の合理化にとどまらず、革新的な技術や事業モデルの導入に積極的だった。オーダーメイド型だった商習慣をカタログ販売に転換するなどの経営革新で、石川島重工業を世界一の造船会社に成長させた。

「私欲のない人間性」。その後、土光は経団連会長を経て第二次臨時行政調査(臨調)会長として行政改革を行った。三公社民営化などの行革において、最も反対したのは政治家や官僚よりも、ステークホルダーである「普通の人々」だった。

例えば国鉄は年間2兆円という巨額の赤字を出していたが、その非合理的な経営のおかげで享受している利潤を諦めてまで改革しようという動機が世間一般にはなかった。将来のビジョンを共有できたとしても改革に伴う苦痛を我慢する必要がある時、人は理論だけで動くものではない。その点、土光の人間としての最大の魅力は私欲のなさにあった。収入のほとんどを女学校に寄付する土光が、あるべき日本の未来を語り行革の必要を訴える姿に、産業界が賛同し、世論も動いていった。

今年は土光が亡くなって30年。晩年の土光は若い世代に次のような言葉を残している。「行革というのは、10年先、20年先を動かす君たちが考えることだ。そのときの日本を、君たちがどう動かしているか、俺は地獄の釜の底から見ているぞ」。利潤を奪い合うのではなく利害関係者と未来のビジョンを共創する力、革新的な手法、そして私欲のない人間性。インクルーシブでイノベーティブなリーダーが今こそ求められている。


白石智哉◎日本初の本格的ベンチャー・フィランソロピー組織であるソーシャル・インベストメント・パートナーズ共同代表理事。フロネシス・パートナーズ代表取締役CEO/CIO

文=Forbes JAPAN編集部

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