国連が定めた「持続可能な開発目標(SDGs)」がグローバル経済と日本のビジネスを変えつつある。経団連が企業行動憲章を改訂したことで、財界の中心にいる人々が公共の場に17色の「SDGsバッジ」をつけて登場し、多くの企業の統合報告書にも、自社の取り組みをSDGsに結びつけている事例が並んだ。これらの動きは、年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)が主導するESG投資主流化の流れに呼応している。
一方で、SDGsが経営に与える「付加価値」については、ほとんど理解されていない。日本の企業の多くは、SDGsの各目標との緻密な紐付けこそ行っているものの、そこにとどまり、経営戦略や事業計画につなげている事例は少ない。
国連の「SDGコンパス」には「社会の要請から自社の事業を構築すべき(アウトサイドライン)」と記載されているが、経営者の多くは、創業理由が社会のニーズへの対応であることから「100年前からやっている」とモヤモヤ感を持ち続けているのが実態だ。
しかし、私は、SDGsには、ESG投資対応を超えた、経営にとっての付加価値があると認識している。それは、「リンケージ(連携思考)」、「バックキャストとムーンショット(逆算思考)」という思考方法から紐解ける。
現在、SDGsは各目標が個別・独立しているように理解されているが、本質は真逆である。「作る責任、使う責任(目標12)」をはじめ17の目標は結びつき、1つ解決したら他が深刻化したり、複数同時でなければ解決できないという複雑な関係をもつ。SDGsを理解する上で最も重要な概念は、有機的に結びつける「リンケージ」であるが、そこを理解できている企業が少ない。
開発分野では、戦略的に「リンケージ」が使われている。例えば、世界食糧計画(WFP)の「学校給食プログラム」は、「学校で給食を出す→子どもが学校に来る→食事をして栄養が改善される→勉強する」という効果に加え、給食の材料を周囲の農家から買うことで地域の経済もよくするという「一粒で5回美味しい」アプローチがある。ここで給食は、その地域をよくするための「レバレッジ・ポイント(梃子の力点)」であり、給食を起点に物事が「ドミノ倒し」のように動いていく。