グローバル企業である華為技術(ファーウェイ)は、SDGsと事業の相関関係とこのインパクトの連鎖に気づき、ビジネスモデルの中核に据えている。華為技術は自社の強みであるITがSDGsの各目標に与えるインパクトを指数評価した上で、教育(目標4)と組み合わせることで、他のほとんどの目標にインパクトを創造できるという結論を出し、これを実践する方法を実現しつつある。
とくに、ITと教育の組み合わせが大きなインパクトを与えるのは女性のエンパワーメント(目標5)とやりがいのある仕事(目標8)と分析しており、これがさらに次の経済効果を生み出す。まさに「SDGドミノ」だ。
もうひとつは、達成目標の2030年にあるべき姿から時間的・論理的に「逆算」するという思考だ。欧米企業の多くは、SDGsを活用した「ムーンショット(アポロ計画のように壮大な目標を設定し、逆算で実現する)」を打ち上げようとしている。200以上のCEOが組織する持続可能な開発のための世界経済人会議(WBCSD)は「Vision 2050」という報告書の中で、30年後の世界においてすべての人が地球の限界の中で「よく生きる」ためにはビジネスがどうすべきかを真剣に論じているし、NIKE社は20年までに環境への負荷を半減しつつ売り上げを倍増するとしている。
日本企業でもトヨタ自動車が50年までに二酸化炭素排出量をゼロにすると宣言するなど、これまでにはない思考回路の目標設定が始まっている。
日本企業は、リンケージの真剣な追求とムーンショットにより、自社のあるべき姿を実現していく上での事業戦略構築の土台ができるはずである。
目指すは、自社の強みで変化を起こせる「レバレッジ・ポイント」を見つけ出し、そこから連鎖的な「SDGドミノ」を起こすことで、より大きな社会的インパクトを創出することだ。そこで、これまでは組まなかったようなビジネスパートナーを見つけることができれば(目標17)、事業の辺縁を広げて自社を中心とするビジネス・エコシステム全体で利益を生み出していくことができる。
こうした「プラスサム」の考え方こそが30年に向けた持続可能なビジネスといえるのではないだろうか。
田瀬和夫◎SDGパートナーズ代表取締役CEO。外務省入省、国際連合事務局・人道調整部・人間の安全保障ユニットへの出向、デロイト トーマツコンサルティング執行役員CSR・SDGs推進室長を経て、2017年9月にSDGパートナーズを設立し、現在に至る。大阪大学大学院国際公共政策研究科招聘教授。