だが、問題はそれほど簡単なものではない。食品研究を行うデンマークの非営利組織、ノルディック・フード・ラボは5月1日、昆虫食についてまとめた「On Eating Insects: Essays, Stories and Recipes(昆虫を食べること:エッセイ、ストーリー、レシピ)」を出版した。この本は、昆虫食の問題の複雑さに加え、昆虫食は必ずしも持続可能ではない可能性があることなどについて記している。以下、同著の抜粋を紹介する。
一般化された「持続可能性」
全ての昆虫が持続可能だという考えは、まやかしだ。まず、食用の昆虫はいつでもどこでも手に入るというものではない。“野生”の昆虫を捕獲することは、乱獲につながる恐れがある。
また、食用の昆虫を養殖するとしても、それが環境にどのような影響を及ぼすかについて、まだあまりよく知られていないのが現状だ。昆虫食を普及させることが「ソリューション」だと主張する人たちもいるが、その主張以上に、現実はより複雑だと考えられる。
養殖される昆虫の生息環境は、持続可能性に関する複雑な状況下に置かれる。例えば、タイでは「タガメ」が養殖されているが、水中の小動物などを捕食するタガメを育てるためには、餌となる生物もタガメとは別に育てる必要がある。つまり、タガメに加え、そのためのリソースも必要になるということだ。
より一般的に養殖されているその他の昆虫についても、問題は同じだ。大抵の場合、こうした昆虫の餌は栽培された穀物で、それらは養殖される昆虫の環境フットプリント(生産活動が環境に与える負荷)に加えられることになる。つまり、昆虫を大量生産すれば餌である穀物も大量に必要となり、従来のタンパク源よりも持続可能性が高いとは言えなくなる可能性がある。
さらに、養殖した昆虫を消費者向けに販売するとなれば、保存性を高めるための加工や、消費者の好みに合わせることが必要になる。大規模生産を行うためには、粉砕の工程やフリーズドライ製法などの導入が必要になるが、どの製造工程を取ってみても、かなりのエネルギーを消費することになる。
全体的に見て、昆虫を本来とは異なる生息環境の下で、さらに大規模に養殖するということについての現実は、まだ十分理解されているとはいえない。隠された、あるいは予見できない環境コストが発生する可能性もある。昆虫を原料とする食品の販売についても、同様のことが言える。あまり言及されることはないが、製造・加工の工程には、環境保全のために負担すべきコストが伴うものなのだ。