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2018.08.02

社会全体でベンチャーを育てる時代へ|出井伸之

クオンタムリープ代表取締役 出井伸之氏

人生は岐路の連続。最良の選択でチャンスを呼び込むためには、自身と深く対話し、自分の中にある幸せの価値観を知ることが重要である。この連載は、岐路に立つ人々に出井伸之が送る人生のナビゲーション。アルファベット順にキーワードを掲げ、出井流のHow toを伝授する。

今回は、Venture(ベンチャー)について(以下、出井伸之氏談)。


ここ数年、米国と中国ではベンチャーの活躍がめざましい、大企業との動きにも勢いがある。中国では、多額の資金がベンチャーに動き、その総額は米国を抜くという急激な伸びをみせている。米国では、ベンチャーがエグジットして大企業と結びつくという事例が実に多く見られている。

米国では、2016年時点のユニコーン企業上位5社全てがVCからの投資を受け、そのうちの4社は創業10年未満だった。こうした若い企業が経済の中心にいる。

米中と比較して、日本のベンチャーは国内思考が強い。もっとグローバルな視点を持ち考えることができればといつも思っている。そうすれば、成長のためのネクストステップがいくつかあることも自然とわかるだろう。

というのも日本には、上場することを目的としているベンチャーが非常に多い。ところが、上場後に成長の資金をうまく調達できず、今後の成長を期待されたものの「死の谷」に陥ってしまい抜け出せない、というかなり苦しい事態が実際に起きてしまっている。

成長するベンチャーが育つ環境

ベンチャー(Venture)という言葉は、アドベンチャー(Adventure)が語源となる。

私が代表を務めるクオンタムリープで準備を進めている、エコシステム「アドベンチャー・ビレッジ」では、村全体でベンチャーを育て失敗してもみんなでサポートして成長させていこう、という思いに共感をしてくださる国内外のビレッジメンバーを現在調整中だ。

ビレッジの中には、資金投資のサポート機能"アドベンチャービレッジキャピタル"もある。
このように、ベンチャーがもっと大胆に冒険していける環境を、つくっていくことが大切ではないかと思う。

経済産業省でも動きがある。世耕大臣の肝いりで、スタートアップ企業育成支援プログラム「J-Startup」が立ち上がった。これは、フランスのインキュベーション施設「Station F」と提携すべく進めているという話も聞いている。

クオンタムリープの「アドベンチャー・ビレッジ」は、この経産省の動きとも協力しながら、活動していく予定だ。
日本のベンチャーが成長していけるようなサポート少しでもできればと思っている。

硬直化した日本、そして伝統企業は

勢いのあるベンチャーへのサポートも必要だが、伝統のある大企業や中小企業も、変化を求められている。

技術が進歩し社会が変革して起きた日本のパラダイムを振り返ってみると、江戸時代、明治維新、戦後の成長があった。そして今は米中情報革命時代だ。現在を含めたこの4つのパラダイムのうち、最もベンチャーが育ったのは、戦後の成長の時期だろう。

この頃ベンチャーだったソニーやホンダなどが、世界に名の通る超大企業へと成長していき、"Japan as No.1"や "21世紀は日本の時代"と、もてはやされた。ネクストパラダイムにむけて、こういった伝統的な大企業も変革を起こさなくてはと思っているものの、それはなかなか容易ではない。

イギリスのジャーナリストのビル・エモット氏が、書籍「西洋の終わり」で触れているが、1980年代から90年代前半までの日本の勢いはどこにいってしまったのだろうか? 今の社会は硬直化してしまっている。

数カ月に1度、中国に出張に行く度に、テクノロジーの急速な進化を目の当たりにする。現在、タクシーもレストランもQRコード決済になっていて、現金はほとんど使えない。完全に日本は追い越されてしまっている。QRコードは、もともと日本人の発明だった。

AI、ブロックチェーン、IoTなど新しい技術が進歩している今、世界中が次のパラダイムの手前で改革前夜の状態になっている。だからこそ、日本としてのビジョンを持ちつつグローバルにベンチャーを育てて、企業を変革させていくチャンスの時期だ。もっと真剣に、ビジョンから実行へと変革に取り組んでいかなくてはと思う。
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インタビュー=谷本有香 構成=細田知美 写真=小田駿一 取材協力=Quantum Leaps Corporation 撮影協力:Union Square Tokyo

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