採用情報をオープン化することで、求人メディアが主導権を握るHR業界のパワーバランスの平準化を目指す「Open Recruiting API構想」。立ち上げ人であるHERP代表の庄田一郎と、それに賛同する「Find Job!」を運営するミクシィ・リクルートメント代表取締役社長の鈴木貴史とSCOUTER代表取締役の中嶋汰朗による対談の後編。
前回では、採用サービスの数が多すぎる昨今、情報を集約することで求職者が情報を一覧できるプラットフォームの必要性が語られた。後編ではHR企業から見た企業の人事担当への要望など、より今日的な問題が語られた。日本の採用現場が抱える課題とは──。
フェイスブック情報のみでアップルからオファーがきた
庄田:媒体利用企業向けの求人情報のオープン化にあたって議論すべきだなと感じるのは、個人情報の取り扱い方です。マネーフォワードがユーザーの各銀行情報を扱うように、これまで各人材会社が扱っていた個人の経歴や年収データを管理することになります。こうした情報をどこまでオープンにするのか、あるいは誰がその決定を下すべきなのでしょうか。
中嶋:デリケートな問題ですよね。テクノロジーによってセキュリティを万全にするのはもちろんですが、私は、個人のキャリアデータは本質的には個人のものだと考えています。ここで問題になるのは、誰のものかではなく、むしろどう扱うかではないでしょうか。
最終的には、どの程度の情報を企業に渡し、公開するかを決める責任はユーザーにあるはず。採用サービスに経歴を伝えて終わりではなく、普段からSNSでどの程度情報を公開するか、企業に渡した情報をアップデートするかなど、個人が自分の経歴情報をどう扱うかまで考える。もちろん、HR企業はこのリテラシーを高めるよう呼びかける必要がありますが。
鈴木:この観点でいうと、なぜ日本にリンクトインが根付かないのかは重要な問題かもしれません。アメリカでは、自分の職歴をSNS上で誰でも閲覧できるようにしておくのが一般的。企業もリンクトインの経歴を見てオファーを送るのが当たり前になっています。ですから応募企業ごとに職務経歴書を書いたり求人メディアごとに職歴を入力したりする手間はほとんどありません。
一方で、日本のSNSはフェイスブックに写真をアップする程度。現在の勤務先を書いていても、これまでの職歴や成果まで公開している人はほとんどいません。
おそらくこれは、職務経歴を公開するメリットが認識されていないからです。活用価値があると思っていないため、無駄に情報を出すべきでないと考えている。その意味では、情報の統一を目指すために最初にすべきなのは転職するから職務経歴書を作成するという文化をなくすことですよね。
中嶋:最近はSNS経由での手軽な会員登録をウリにする転職サービスも増えてきました。しかしこれは一長一短で、簡単に登録できると会員数は増えやすいですが、その分コンバージョン率は下がります。一方で、きちんと情報を入力してもらうと会員数は伸びにくいですが、コンバージョン率は上がる。つまり、真剣に転職を考えている人が残るわけです。多くの求人企業は、ユーザビリティをとるか情報量をとるかで葛藤していますね。
今後、HR企業に必要とされるのは、求職者が自ら入力せずとも情報を収集できる仕組みではないかと考えています。例えばオンライン上の情報を個人に紐付けるAIや、第三者視点での評価を集めると行った動きなど。従来の手間を効率化しながらも、多くのデータを集めることが重要だと思います。Find Job!はユーザー登録に関してどうお考えですか?
鈴木:Find Job!は情報の量は重視しておらず、コンバージョンの質をどう担保するかのみ考えていますね。志望動機やエージェントからの推薦文を一切見ていない場合もあります。はっきりいって、ほとんど参考にならないからです。
例えば、ある人はフェイスブックで公開していたポートフォリオだけでアップルからオファーを受けたそうです。この時アップルは日本語に対応したキーボードアプリを製作したかったそうなのですが、漢字やカナの変換機能をつくることができるのはその独特な文化の中にいるアジア人エンジニアだけ。そのスキルがあるかどうかはポートフォリオを見るだけでわかるので、アップルはすぐにオファーを出したんです。
第一、新卒の営業職などは別ですが、技術職にとって重要なのは「何ができるか」です。なので極端なことをいえば、ポートフォリオ以外の情報は必要ないし、究極的にはそうなるべきだと思います。