ただ、早く引退することは早期死亡につながるとの指摘もある。そうなのだろうか?米コーネル大学とオーストラリアのメルボルン大学が共同で行った研究結果は、その可能性を示唆している。
研究によると、米国の男性死亡率は、62歳で目立って上昇している(米国人の平均寿命は79歳くらいだ)。人口動態がさまざまな要因によって変化し得ることを忘れてはいけない。ただ、62歳の死亡率が2%上昇していることは、科学者によれば「統計的に有意な」変化だ。つまり、これは偶然起きていることではない。
また、70歳代の前半で死亡する男性が多いことについては、高収入を得られた製造業の仕事が過去40年間に大幅に減少したことの影響が指摘されている。米労働統計局によると、製造業の雇用がピークに達した1979年以降、およそ700万人の雇用が失われている。
これにより、約束されていた年金や医療保険の保障が失われてしまった。雇用を失い、収入の少ない時給制の仕事に就かざるを得なかった人たちは、十分な医療を受けられなくなり、貯蓄も減らしている。
定年前に職を失った米国の男性の多くが、病気や慢性的失業といった理由で、年金を満額受給できる年齢になる前の62歳から、年金を受け取り始めている。こうした人たちは、希望して早期退職したわけではない。年金を満額受給できるのは、米国では多くの場合66歳からだ。
また、研究結果によれば妥当な給料を得られる仕事に就けなくなった人は、不健康な生活習慣に陥ることが多い。オピオイド(鎮痛剤)やアルコールの依存症になったり、交通事故に巻き込まれたり、肺がんなど生活習慣に関連した病気にかかったりする人が増加するという。
調査結果は、「62歳で退職する男性が多いことにその他の要因が重なり、この年齢での死亡率が目立って高くなると考えられる」との見解を示している。こうした傾向をなくすには、どうすればいいだろうか?
収入の多い雇用の機会を失う男性たちに教育や再訓練の機会を提供することは、確かに助けになるだろう。また、より堅固な社会的セーフティーネットも不可欠だ。メディケア(高齢者向け公的医療保険)に加入できる年齢を、例えば55歳に引き下げることも一案だろう。