次なる起爆剤はAIだ。単純労働が代替されてしまうことはもとより、日本語という障壁によってある意味守られていた日本経済も、テクノロジーによる同時通訳が社会実装されれば、世界中がコンペティターになる。
世界の境界線があいまいになる中では、もう昇進をかけて同期と争っている場合ではない。会社員であっても、いかに個を確立できるかが重要なキーとなる。
最近『どこでも誰とでも働ける』(ダイヤモンド社)を上梓した尾原和啓氏が、変幻自在にキャリアを変化させていく4名に集っていただき、今を生き抜く方法論についてディスカッションした。自身のブランドを確立するスピーカーの放談から、成功者の共通点やキャリア開発のための意外なヒントが見えてきた。
著者の尾原氏に加えて、4名のゲストスピーカーは次の通り。Yahoo!アカデミア学長の伊藤羊一氏に、一般社団法人at Will Work代表理事の藤本あゆみ氏、声優の中村繪里子氏と、Forbes JAPAN副編集長の谷本有香。
オリジナリティはタグの掛け合わせ
尾原和啓氏(以下、尾原):人に紹介されたりイベントに登壇したりするとき、「元○○の誰々さん」って言われることがありますよね。この「元○○の呪縛」から解き放たれたいと思ったことは? 元グーグルの藤本さんどうですか?
藤本あゆみ氏(以下、藤本):グーグルを退職して間もなく、イベント登壇のお声がかかったことがあって。そのときは「元グーグル」という肩書を封印することを条件にお受けしたんです。やりたいことがあって退職したわけなので、半ば痩せ我慢ではありましたけど、元グーグルのブランドから早く抜け出したかったんです。
谷本有香(以下、谷本):私もお仕事で関わる方から「元キャスター」を強調されることはありますね。色んな経歴がある中で、キャスターを引き合いに出されることが圧倒的に多い。
尾原:相手が自分のことをどう思いたいか、先方の希望が透けて見えますよね。僕は元マッキンゼーとか元楽天とか「元○○」が多すぎるから、その場に応じて使い分けていますけど。
中村繪里子氏(以下、中村):尾原さんは、元○○っていうより「たくさん転職して今はバリに住んでいる愉快な人」って言った方がしっくりくるかも(笑)。私は声優なので、長い間「○○役の中村」と呼ばれ続けていたのですが、「中村繪里子」を覚えてもらうための機会は存分に活用しましたね。最近は、イベントでも役名ではなく名前を呼んでもらえることが多くなりました。
(写真左より:中村繪里子氏、伊藤羊一氏、藤本あゆみ氏、谷本有香、尾原和啓氏)
伊藤羊一氏(以下、伊藤):僕は今でこそ、Yahoo!アカデミアの学長という、なんとなくキャラが立った役割をやらせてもらっているけど、「元○○」と言えるほどの軸がないまま40代を迎えたんですよ。それが、東日本大震災をきっかけにアンテナを立て始めた。なので、デビュー間もない新人みたいなものです。で、転職は目的ドリブンというよりは、全て人のご縁でしたね。
尾原:僕も「人ドリブン」であることが多いですね。世の中のビジネス本で「ネットワークを広げろ」ってよく書いてあるけど、勘違いしちゃダメですよ。むやみやたらに知り合いを増やす必要はなくて、"あなたを渇望してくれる一人"を見つければいい。その人のために結果を出していれば、羊一さんのように、また次の"渇望してくれる一人"が現れるんです。
伊藤:渇望される人であるために、いかに実行を続けられるか。本を読んだり、偉い人たちの話を聞いたりしていても、要は同じこと言っているんですねよ。要は「踏み出せ」ってことじゃないですか。
谷本:あとはタグの掛け合わせで、いかに特別になるか。私は新卒で入社した山一證券が経営破綻してこれからどうやって生きていこうかと思ったときに、"金融・経済"にはすでに専門家も多く、食べていけるイメージが湧きませんでした。ただ、証券会社内でキャスター業をやらせて頂いていたのと、当時は経済キャスターなんていなかったから、"経済"×"キャスター"ならいけるんじゃないかと思いましたね。