原因の一つは、少女や女性に対する言葉では表せないほどの犯罪の増加だ。インドは無法国家になりつつあるとの見方につながっている。
米ロングアイランド大学ポスト校のウダヤン・ロイ教授(経済学)は、「インドでは珍しい事件ではない。だが、少女たちが被害に遭った最近のレイプ・殺人事件は、国民に衝撃を与えている」と話す。そして、そうした国民の強い嫌悪感に対し、モディ首相の対応は遅かったという。
「政府は4月の事件発生を受け、子供に対する性的暴行で有罪判決を受けた被告に死刑を科すことを認める政令を速やかに承認した。だが、この時点でそれだけの対応では不十分と受け止められており、首相の感覚は国民とずれているとの印象を与えた」
「この問題が世論の注目を浴び続ければ、選挙にも多大な影響が及ぶことも考えられる。インドでは投票する女性有権者の数が過去最多に達しており、2014年の総選挙では多くの州で、投票した女性の数が男性を上回った。州議会選挙でも、男性より女性の投票率が高くなることが多くなっている。つまり、女性たちが首相に退陣を迫る可能性があるということだ」
また、野党が結束して首相に対する統一戦線を張り、いずれの党も絶対多数に当たる票を獲得できなくなることもあり得るという。
「与党インド人民党(BJP)は2014年の総選挙で絶対多数(543議席のうち282議席)を獲得したが、一般投票の得票数は全体の31.4%にすぎなかった」
「野党の統一戦線が与党と連立パートナーを上回る議席を獲得する可能性は低いと見られるが、ゼロではない。さらに、現職の再選が嫌われる場合も多い。2014年の総選挙では野党として選挙戦を展開、圧倒的多数で与党を負かしたBJPは、次の選挙は現職として戦うことになる」
もう一つの要因
ロイ教授によれば、次の総選挙では現職の再選を必ずしも歓迎しないというインドの有権者の特徴に、「雇用創出のペースの鈍化と農業分野が置かれる厳しい現状」が加わることになると見込まれる。
「雇用に関するインド政府のデータは、あまり信頼性があるとは考えられていないが、インド準備銀行の統計の一部には、(インドのGDPが高い成長率を記録していた)2014~2016年の間にも実際には雇用は減少し、農業分野では特に大幅に減っていたことを示すものがある」というのだ。
教授は、「首相の支持者は農村部に多いことに注意しておく必要がある」と指摘する。つまり、(女性に加えて)農業従事者と失業者の2つのグループが、首相を辞職に追い込むこともあり得る。
「・・・モディ首相率いるBJPが次の総選挙で勝利する可能性は高い。だが、それでも番狂わせは起きるかもしれない」