スイス・アルプスとオーストリアに挟まれたリヒテンシュタインは、人口およそ4万人、病院は1か所だけという小国中の小国だ。ただ、従来からの税率の低さを理由に多数の金融機関が進出しており、登記された法人数は人口を上回る。
同国のアロイス皇太子は仮想通貨ビジネスのコミュニティーに対し、リヒテンシュタインこそがこのビジネスの中心になるべき場所だとのメッセージを発信し続けてきた。そして、皇太子の働き掛けは、功を奏し始めている。
公国からの招待
2013年にはイーサリアムの開発に深く関わっていたヤニスラフ・マラホフは現在、リヒテンシュタインを拠点にブロックチェーン「エタニティ」の開発を進めている。マラホフは、エタニティは低コストでのスマートコントラクトの処理を実現でき、高いスケーラビリティが期待できると見込んでいる。
マラホフは2016年に出席したあるカンファレンスで、ヒテンシュタインの王子の一人を通じて、同国が仮想通貨に対して前向きな姿勢であることを知った。その後、規制当局や税務当局との協議を経て、自身のスタートアップを設立する場所は、この国のほかにはないと決意した。「優遇措置は特にないが、仮想通貨関連の起業がしやすい環境だ」という。
リヒテンシュタインでは、銀行口座を開設していなくてもビットコインやイーサリアムを資本金として企業を設立できる。マラホフは5万スイスフラン(約555万円)相当のイーサリアムを資本金として、エタニティを立ち上げた。
目指す「ビットコインシュタイン」
この国が目指すのは、仮想通貨やブロックチェーン関連の起業を促すことだけではないようだ。
リヒテンシュタインは欧州連合(EU)の加盟国ではないものの、欧州経済領域(EEA)には加盟している。仮想通貨やブロックチェーンなどの関連企業を含む金融サービス各社が同国に拠点を置くメリットには、最も厄介なEU規制の適用を一部回避できる一方で、単一の免許で自由に域内での営業ができる「パスポート制度」が利用できることがある。
これを理由に、リヒテンシュタインの銀行は欧州各国の金融部門が仮想通貨などの取り扱いを避ける中でも、顧客に代わって仮想通貨による投資を行ったり、イニシャルコインオファリング(ICO)に関するアドバイスを提供したりしている。
アロイス皇太子は3月、王室の運営においても近く、ブロックチェーンを導入する考えがあることを暗に示した。また、侯爵家の財産の一部をデジタルトークン化することについても言及した。
ブロックチェーンを明確に支持する皇太子の姿勢は、ブロックチェーン・コミュニティーにも影響を与え始めている。同国の首都ファドゥーツでは毎月、ブロックチェーンに関する会議が開催され、設立から間もないChainiumやVimanaなどのスタートアップの関係者を含め、数百人が参加している。この小国に毎月それだけの人が集まるとは、悪くない状況だ。
リヒテンシュタインのブロックチェーン関連のビジネスについてマラホフは、その未来は明るいと見ている。同国初となるブロックチェーン関連に特化したコワーキングスペースの開設計画も進めている。
もちろん、課題は多い。小国であるため、人材もベンチャー投資資金も不足するだろう。それでも、仮想通貨関連の企業にとって確かなことは、彼らにとってのリヒテンシュタインの魅力は、かつてなく高まっているということだ。