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2018.04.03 11:30

英国発の旅行会社が考える、日本国内の新たな旅行のカタチ

奥ジャパンCEO マット・マルコムソン


ただし、奥ジャパンの人気の秘訣はアドベンチャーツーリズムだけでなく、総合的な「楽しい旅の経験」だという。例えばウォーキングツアーでは、歩けなくなった場合のバスやタクシーなどの別の手段が用意されている。客が一番求めているのは、日本で特別な経験をすることだ。マルコムソンのこだわりは「心のこもったおもてなしをしている宿」だ。企画の際の宿選びにはめっぽう厳しいとスタッフも話す。
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日本では代理予約の旅行業者の多くは、有名観光スポットを安く効率的に訪れられるパッケージツアーが主力商品で、薄利多売のビジネスモデルだ。低価格を維持するために大規模な団体旅行に頼り、数十人以上で利用できる大規模ホテルやレストランしか使えない。

規模が小さくても素晴らしい経験ができる旅館や民宿は採算が取れないと敬遠されていた。奥ジャパンは、13人までの小規模団体旅行や個人旅行に絞り込み、小さな旅館や民宿を積極的に組み込んだ。

「ひとり客は受け入れていない」「アレルギー対応はできない」「外国人は受け入れたことがない」。当初は小さな旅館や民宿から断られることも少なくなかったが、今では「奥ジャパンの客ならいいよ」と言う宿もあるという。異文化を学ぶ意欲がある客たちは、宿からの評判がいいのが自慢だ。
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価格は安くはない。3泊4日の熊野古道のツアーは10万円以上。食文化をたどる旅は10泊で50万円近く。高級宿に泊まるわけでなく、出発地点の京都や大阪までの旅費が別であることを考えれば高いといえるかもしれない。しかし、同社によると顧客満足度は高く、リピーター客も多い。薄利多売はしないので、営業利益率が大手と比べて高いのも特徴だ。

マルコムソンは欧米からの訪日客について、「何年も日本に行くことを夢見ていた人たちが多い。多少、お金がかかっても日本への旅行を特別なものにしたいだろう。自分がそうだったから分かる。日本の旅行会社は客の気持ちが分かっていないところが多い」と話す。


昔ながらの風景が残る地域をウォーキングやサイクリングでめぐることで、単なる観光ではない「アドベンチャー」の旅が楽しめる

外国人CEOの会社が地域活性化

外国人CEOが立ち上げたアドベンチャーツーリズムの会社が地域活性化に貢献している例は少なくない。

北海道ニセコ町では1996年設立の「NACアドベンチャーセンター」がスキー以外にラフティングなどの夏のアクティビティを紹介して地元の滞在客を増加させた。北海道はいま、アドベンチャーツーリズムを全面的に押し出して海外向けマーケティングに取り組む。92年設立の「Walk Japan」は、中山道をはじめとする日本全国の観光地を歩いて楽しむツアーの販売ウェブサイト。

そのオペレーションを担うザ・ジャパントラベルカンパニーは、地元の大分県杵築市で行政や地元企業と連携して地域に密着した事業も展開している。
 
奥ジャパンは熊野古道の一部を有する和歌山県に宿泊施設建設の計画を立てている。「地元のデザインや文化を生かした、ここにしかできないものを提供したい」とマルコムソンは意気込む。日本の観光の始まりの地で、新しい日本の旅の形が生まれるかもしれない。


MATT MALCOMSON(マット・マルコムソン)◎奥ジャパンCEO。18歳で世界を旅し、日本の魅力に取りつかれる。大学卒業後に再来日し、英語教師や出版社勤務を経て、奥ジャパンを設立。ツアー運営や新企画のためのリサーチも担当。秘境の温泉を探し回っている。

文=フォーブス ジャパン編集部 写真=井上陽子

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