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2018.03.31 12:30

「神経〆」で台湾の漁業を変える、日本人シェフが描く夢



奥が「RAW(ロー)」のヘッドシェフ アラン・ヒュアン

会場では、どのように受け止められたのか。目の前で行われている活け締めの工程を、真剣な面持ちで見守っていたのは、ミシュランの1つ星、予約の取れないレストランとして有名な、「RAW(ロー)」のヘッドシェフであるアラン・ヒュアンだ。「これまでYouTubeでしか見たことがなかった『神経〆』を、目の前で見ることができて、とても感動した」と彼は語った。

「神経〆」は高級レストランのものか?

ヒュアンの店では、台湾の二十四節気をもとにして、季節感あふれるメニューを供している。スタッフは全員台湾人、豊かな食材に恵まれた台湾の地の利を生かし、地元産のキャビアや独自の野菜などを揃え、食材には事欠かない。

ただ、問題は魚だった。傷みやすいアジやサバなどの青背の魚はどうしても日本産でないと臭みが出てしまい、数日で使えなくなってしまう。魚は内臓から腐るから、長く保存したい場合は、内臓を抜くのが基本だ。「なぜ、内臓付きで来ても、日本の魚は痛まないのか」とヒュアンが、「神経〆」を実演した長谷川に質問した。

「日本の魚は、エラの裏の動脈を切って血抜きをするうえ、内臓は最も体温が高い部分なので、そこをまず船上で冷やす」と長谷川が答えると、続いて漁師である藤本が、臭みの原因になる腹に残っている餌をどのようにして吐かせるか、自らがその作業を行なっている動画を見せた。

しかし、本当に台湾の魚は日本の魚のような品質になれるのか。プロがどのように台湾の魚を判断するのか。筆者はそれが知りたくて、イベントの後に、「祥雲龍吟」の稗田他イベントの出席者とともに、深夜1時の台北の魚市場を訪れた。

氷を使って冷やしている魚もあるが、ほとんどの魚は地面に置いたカゴにそのまま置かれている。福江島の鮮魚店主の林はそんな様子をひと目見て「もったいない」とつぶやいた。1匹の魚を指差し、「この子なんて、うちで扱う魚の中だって、100匹に1匹いるかいないかのポテンシャルですよ」と語る。

モリを使って水中で魚を仕留め、ストレスなく水中で「神経〆」をする技術に長けた長谷川は、別の魚を見て、「これは、モリを使って仕留めていますね。この技術があれば、水中で活け締めをすることも可能なはず」と将来への可能性も指摘した。

そんな言葉が、一緒にいたシェフのヒュアンを勇気づけた。「これまで関心はあったけれども、せっかくだから、自分で『神経〆』をやってみようと思う。自分でやってみれば、何を自分がわかっていないのかが理解できる」

林は、「魚のバトンリレーの一番最後にいるのがシェフ、シェフが変われば、鮮魚店が変わり、鮮魚店が変われば、漁師も変わる」と目を細めた。
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文・写真=仲山今日子

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