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「旧優生保護法」(1948〜96年)のもと、知的障害などのある人たちに不妊手術が強制されていた問題が広く報道されています。「日本でそんな野蛮なことが起きていたなんて……」「ひどすぎる」「人権侵害以外何ものでもない」そんな声が聞こえます。

しかし、いまも望まない不妊手術を強制する法律が存在することをご存知でしょうか。いわゆる「性同一性障害特例法」(2003年成立)です。自分のジェンダー・アイデンティティ(性自認)を法的に認めてもらうためには、トランスジェンダーの人たちは、この法律に従って戸籍変更手続きをする必要があるのです。

日本政府は、レズビアン、ゲイ、バイセクシュアル、トランスジェンダー(LGBT)の人権を改善する世界的な流れに加わり、国内政策を少しずつ改善し、国際的な取り組みを支持してきました。しかし性別認定手続(つまり戸籍変更)を定める「性同一性障害特例法」は、日本のこれまでの前進に対する汚点のひとつです。

自らのジェンダー・アイデンティティを確立するため、戸籍の変更を希望するトランスジェンダーの人たちは、いわゆる「性同一性障害特例法」に基づき、家庭裁判所に申立てをする必要があります。10年以上前にこの法律が成立したときには、日本の性的マイノリティにとって画期的な出来事でした。

しかし、この手続には、基本的人権の侵害・差別にあたる要件が組み込まれていました。それは、結婚していない成人で、子どもがいないこと、さらに「性同一性障害」(GID)であるとの精神医学的な診断を受け、不妊手術を受ける、という要件です。

「性同一性障害特例法」は、法的な性別変更(戸籍変更)の要件として、「生殖腺がないこと又は生殖腺の機能を永続的に欠く状態にあること」を義務づけていますが、これは「強制不妊」に該当します。

「強制不妊」が人権侵害であることは論を待たず、世界保健機関(WHO)など、健康と人権を扱うさまざまな国際機関が広く批判しています。拷問に関する国連特別報告者は2013年、トランスジェンダーの人たちに「自らが望む性別への変更の要件として、望まないことが多い不妊手術を受けることを義務づける」ことは人権侵害だとし、各国政府に対し「あらゆる場合において強制又は強要された不妊手術を違法とするとともに、周縁化された集団に属する個人を特別に保護すること」を求めています。

日本では、2016年、超党派の国会議員連盟が、「性同一性障害特例法」の要件緩和に向けて議論を始めると報道されましたが、本格化せず、法改正には至っていません。他方で、一昨年、健康に関する国連特別報告者と拷問に関する国連特別報告者が送付した「性同一性障害特例法」に関する書簡に対して、厚生労働省は日本がLGBTの権利擁護を進展させていることを誇りに思うと回答しました。

しかし、日本政府は、現行の医学モデルと戸籍変更の手続きを擁護し、ある人が本当にトランスジェンダーかどうか、すなわち法的認定に値するか判断する際に「客観性と確実性」が必要だから、と主張しました。

戸籍変更の条件として、望まない手術を強制することは、日本政府の人権上の義務に反するものです。そして、2020年、東京オリンピック・パラリンピックに向けて日本政府が進もうとしている「LGBTの人権を擁護する国」というイメージにも反するものです。

不妊手術を望むトランスジェンダーの人たちもいることは事実ですが、不妊手術を望まないトランスジェンダーの人たちにまで国家がそれを強制することは、人権侵害に他なりません。「優生保護法」による強制不妊手術の被害者の救済が議論されるようになったいまだからこそ、「性同一性障害特例法」による強制不妊手術も止めるべきです。いますぐにこの法律を改正することが必要なのです。

文=土井香苗

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