ピンク:現在、アメリカではワークスタイルの柔軟性が増し、組織と社員の関係性も変わってきている。目的と成果さえ把握できていれば、「いつ・どこで・どのように」働くかは自由。従業員を管理しようとするのではなく、本人の「自律性」を重視するスタイルになっている。また、ミレニアルズは自分が進化している感覚があるか、自分の仕事がどういった影響を周囲に与えているかを認識すること、つまりは「熟達」が重要だと感じ始めている。
それを受けて、GEやアドビ システムズ、アクセンチュアといった企業が、面談などの公式なパフォーマンスレビューをやめ、その場その場でレビューや評価を伝える「リアルタイムフィードバック」を取り入れるようになった。そして、「目的」を持つことの意義が高まり、採用のスタイルも変化している。給料や福利厚生が良い会社ではなく、大いなる目的を持った会社で働きたい思いが強くなっているようだ。
麻野:フェイスブックCEOのマーク・ザッカーバーグも、ハーバード大学の卒業式で「目的を持つ重要性」を語っていた。なぜ、若者たちは「目的」にこだわるようになっているのだろうか。
ピンク:私はミレニアル世代ではないので、あくまで個人の仮説として聞いてほしいのだが、企業が終身雇用というセーフティーネットを提供できなくなってきたことが要因だと考える。不確実性が高まった結果、若者たちは「私の才能を提供する代わりに、会社は一体何をくれるのか? 終身雇用などの安心が提供できなければ、他のものを提供してよ」と考えるようになり、自分の人生を捧げる価値のある「目的」を求めるようになった。
麻野:若者の価値観の変化に関しては、日本も同じだ。ただ、日本では組織内における世代間でのモチベーションのギャップが広がっている。具体的には仕事に金銭報酬や地位報酬を求めてきた上の世代と、仕事に意味報酬を含めて求めだしているミレニアル世代との間に生じているギャップだ。上の世代は下の世代を「ゆとり教育の弊害」と揶揄し、「お金をもらっているんだから黙って働け」と思っていることも多い。
しかし、世間の批判に耳を傾けてみると、批判されている世代はゆとり教育を受けていない世代であることも多い。つまり、問題の根幹は、「モチベーションの世代間ギャップ」にある。そうした背景もあり、日本はあらゆる国と比較して、「従業員エンゲージメント(企業への愛着や仕事への情熱)の高い社員」の割合がわずか6%と、従業員エンゲージメントの低さに悩まされている。
(対談後編に続く)
ダニエル・ピンク(右)◎作家、文筆家。ビジネス関連の主な著書に『ハイコンセプト』『モチベーション3.0』などがある。2018年1月に新刊『When: The Scientific Secrets of Perfect Timing』が発売。
麻野耕司(左)◎リンクアンドモチベーション執行役員(取材当時)。2010年より、現職。13年にベンチャー企業向け投資事業、16年に国内初の組織改善クラウド「モチベーションクラウド」を立ち上げた。