中国のテクノロジー分野の隆盛に関しては、グーグルやフェイスブック等を遮断した“排外主義”がその背景にあるとする見方も強い。しかし、人口14億人を誇る中国はスマホの勃興期の09年から11年までのわずか3年で、3億人を超えるスマートフォンユーザーを獲得。テンセントのメッセージアプリWeChatは14年時点で既に4億人の利用者を獲得するなど、自国内で完璧なエコシステムを創出した。
また、クレジットカードの普及度が低い中国では、WeChatペイやアリペイといったモバイル決済が爆発的に普及し、そこから自転車シェア等の新たなビジネスが生み出された。
さらに「もはや西側企業が追いつけないレベルに達した」と言われる顔認識技術に関しても、中国では政府発行の写真付き身分証明書の取得が義務付けられており、この巨大なデータベースがテクノロジーの発達を後押しした側面がある。
シリコンバレー的な楽観主義
ただし、そのような中国固有の要素を抜きにしても、取材を通じて強く感じたのは、社会全体に満ちあふれる経済成長への強い自信と、イノベーションに向かう貪欲な姿勢だ。西側の基準では無謀とも思える“乗り捨て自由の自転車シェア”にアリババやテンセントらは莫大な資金を注ぎ、カオス的状況を生み出しつつも、物事を前に進め海外進出まで果たした。
さらに「マネタイズを考えるのは後から。まず大事なのは利用者をつかむこと」という、かつてのシリコンバレーを思わせる楽観的マインドセットを持つ企業も中国には多い。
14年に企業価値20億ドルを突破し、香港市場に上場を果たした美顔アプリ企業の「メイトゥ」のCEOは「創業以来、通年で一度も黒字を生み出していない」と涼し気な顔で言い放つ。しかし、その強気の姿勢の背後には世界4.8億人のMAUという圧倒的なユーザーボリュームがある。
中国のインターネット人口は現在7億1000万人という驚愕の数字だが、普及率は約50%程度であり、まだまだ成長の余地を残している。一方で、自国で成功を収めた中国のテック企業らは、インドネシアや東南アジアでその成功を再現しようと、Eコマースやモバイル決済方面に盛んな投資を行っている。
「かつて西側のコピーとみなされた中国のネット業界は独自のイノベーションを生み出す存在になった」とPwCは2016年のレポートで述べたが、その状況はますます加速している。中国のテック企業の飽くなき拡大戦略はまだまだ続いて行きそうだ。